なぜ大きな島には多くの種がいるのでしょうか。「面積が広いから棲める種が多い」── 直感的にはそれで正しそうですが、実はそれだけでは説明しきれません。
大陸から遠い島は近い島より種数が少なく、同じ面積でも地理的位置によって種数が異なるのです。
1967年、ロバート・マッカーサーとエドワード・O・ウィルソンは『島の生物地理学の理論(The Theory of Island Biogeography)』を出版し、この問いに画期的な答えを与えました。
島の種数は、大陸から新しい種が移入する速度と、島上で種が絶滅する速度の動的均衡で決まる ── これが彼らの核心的な洞察です。
本記事では、この均衡モデルの数理を丁寧に導き、種数面積関係 $S = cA^z$ の意味を理解し、シムバロフとウィルソンによる大胆な実験的検証を経て、この理論が自然保護区の設計をどう変えたかまでを一本の筋でたどります。
高校生物では、生物多様性を3つのレベル(遺伝的多様性・種多様性・生態系多様性)で学びます。 そして、生物多様性が失われる原因として開発による生息地の破壊、外来種の侵入、乱獲、環境汚染などが挙げられ、生息地の面積の減少が種の絶滅リスクを高めることが定性的に説明されます。
また、島のように隔離された環境では固有種が進化しやすいこと(ダーウィンのフィンチ、ガラパゴス諸島の生物など)も学びます。 しかし、「なぜ島の面積や大陸からの距離が種数を左右するのか」「種数はどのような法則に従うのか」については、高校では定量的には踏み込みません。
実は、島の種数には驚くほど規則的なパターンがあり、それを数理的に説明する理論が存在します。 次のセクションでは、大学レベルでこの問題をどう考えるかを見ていきます。
マッカーサーとウィルソンの核心的な発想は、島の種数を静的な状態ではなく動的な過程の均衡として捉えたことです。
大陸から島へ新しい種が移入する速度 $I(S)$ は、島にすでにいる種数 $S$ が増えるほど低下します(まだ来ていない種が減るため)。一方、島で種が絶滅する速度 $E(S)$ は、$S$ が増えるほど上昇します(競争が激しくなるため)。この2つの曲線が交わる点 $\hat{S}$ が均衡種数です。
均衡はあくまで動的です。常に移入と絶滅が起こり続けており、種の顔ぶれは入れ替わっています。しかし総種数はほぼ一定に保たれる ── これが「ターンオーバー」の概念です。
この着想がなぜ革新的だったかを理解するには、それ以前の考え方を知る必要があります。 従来の生物地理学では、島の種数は歴史的な偶然(どの種がたまたま到達したか)と進化の結果であり、基本的に変わらない固定値だと考えられていました。 マッカーサーとウィルソンは、種数を「入りと出のバランス」で決まる動的な量として再定義し、面積や距離の効果を統一的に説明したのです。 では、この均衡モデルの数理を詳しく見ていきましょう。
大陸(種の供給源)には $P$ 種の生物がいるとします。島にすでに存在する種数を $S$ とすると、まだ島にいない種は $P - S$ 種です。 島の種数の時間変化は、移入率 $I(S)$ と絶滅率 $E(S)$ の差で決まります。
$$\frac{dS}{dt} = I(S) - E(S)$$
大陸から島へ新しい種が到達する速度を考えます。ここでいう「移入」は、島にまだ存在しない種が新たに定着することです。 すでに島にいる種がもう一度到達しても、新たな種数の増加にはなりません。
島にいる種数が $S$ のとき、大陸の $P$ 種のうちまだ島にいない種は $P - S$ 種です。 各種が単位時間あたりに島に到達・定着する確率を一定($\lambda$ とする)と仮定すると、移入率は次のように書けます。
$$I(S) = \lambda(P - S)$$
$P$:大陸の種数(種プール)、$S$:島の現在の種数、$\lambda$:1種あたりの移入確率。 $S = 0$ のとき $I = \lambda P$(最大)、$S = P$ のとき $I = 0$(すべての種がすでに島にいる)。 $I(S)$ は $S$ の減少関数(右下がりの直線)です。
ここで重要なのは、$\lambda$ の値が島と大陸の距離に依存することです。 大陸から近い島ほど生物が到達しやすく $\lambda$ が大きくなり、遠い島ほど $\lambda$ が小さくなります。 つまり、近い島は遠い島よりも移入率曲線が上方にシフトします。
島に存在する $S$ 種のうち、単位時間あたりに絶滅する種数を $E(S)$ とします。 各種が絶滅する確率を $\mu$ とすると、最も単純には $E(S) = \mu S$ です。 しかし、種数が多いほど種間競争が激化し、1種あたりの絶滅確率自体が上昇すると考えるのが現実的です。 マッカーサーとウィルソンは、$E(S)$ が $S$ に対して上に凸の曲線(種数が多いとき加速度的に上がる)を描くとしました。
単純化のために線形近似を使えば、
$$E(S) = \mu S$$
$\mu$:1種あたりの絶滅確率。$S = 0$ のとき $E = 0$、$S$ が増えるほど $E$ も増加します。 $E(S)$ は $S$ の増加関数(右上がりの直線)です。
ここでも重要なのは、$\mu$ の値が島の面積に依存することです。 大きい島ほど個体群サイズが大きく、絶滅リスクが低いため $\mu$ が小さくなります。 小さい島では個体群サイズが小さく、確率的変動(人口学的確率性)や環境変動による絶滅リスクが高いため $\mu$ が大きくなります。 つまり、大きい島は小さい島よりも絶滅率曲線が下方にシフトします。
均衡状態では $dS/dt = 0$、すなわち $I(\hat{S}) = E(\hat{S})$ です。 線形モデルでは、
$$\lambda(P - \hat{S}) = \mu \hat{S}$$
これを $\hat{S}$ について解くと、
$$\hat{S} = \frac{\lambda P}{\lambda + \mu}$$
$\lambda$ が大きいほど(島が大陸に近いほど)、$\mu$ が小さいほど(島が大きいほど)、均衡種数 $\hat{S}$ は大きくなります。 $\hat{S}$ の上限は種プール $P$ です($\mu \to 0$ のとき $\hat{S} \to P$)。
この均衡は安定でしょうか。$S < \hat{S}$ のとき $I(S) > E(S)$ なので $dS/dt > 0$(種数は増加)、$S > \hat{S}$ のとき $I(S) < E(S)$ なので $dS/dt < 0$(種数は減少)です。 したがって、種数がどちらの方向にずれても均衡点 $\hat{S}$ に戻る力が働きます。これは安定均衡です。
前の記事(B-14-1 ロジスティック方程式)で学んだ安定性解析の方法を使うと、$g(S) = I(S) - E(S) = \lambda(P - S) - \mu S = \lambda P - (\lambda + \mu)S$ の導関数は $g'(S) = -(\lambda + \mu) < 0$ です。導関数が常に負なので、均衡点は確かに安定です。
均衡状態でも、移入と絶滅は止まっていません。均衡種数 $\hat{S}$ における移入率(=絶滅率)をターンオーバー率 $T$ と呼びます。
$$T = I(\hat{S}) = E(\hat{S}) = \frac{\lambda \mu P}{\lambda + \mu}$$
ターンオーバー率 $T$ は、単位時間あたりに入れ替わる種数を表します。 種の顔ぶれは絶えず変わっていますが、総種数はほぼ $\hat{S}$ で安定している ── これがマッカーサー・ウィルソン理論の動的均衡の本質です。
よくある誤解:「均衡種数に達したら、もう種の移入も絶滅も起こらない」と考えてしまうこと。
正しい理解:均衡状態でも移入と絶滅は常に起こり続けています。種の入れ替わり(ターンオーバー)が生じていますが、移入する種数と絶滅する種数が等しいため、総種数は一定に保たれます。これは化学平衡と同じ考え方です。
ここまでで、島の種数が移入と絶滅の動的均衡で決まること、そして面積と距離がその均衡を決定するパラメータであることがわかりました。 次のセクションでは、面積と種数の間にある驚くほど規則的な経験法則 ── 種数面積関係 ── を見ていきます。
島の面積 $A$ と種数 $S$ の関係を両対数グラフにプロットすると、多くの生物群で驚くほどきれいな直線関係が現れます。 この経験則は、マッカーサーとウィルソン以前から知られており、1921年にアレニウス(Olof Arrhenius)が植物について最初に報告しました。
$$S = cA^z$$
両辺の対数をとると、
$$\log S = \log c + z \log A$$
$S$:種数、$A$:島の面積、$c$:定数(生物群や地域に依存する切片)、$z$:べき指数(直線の傾き)。 両対数グラフ上で傾き $z$、切片 $\log c$ の直線になります。
膨大な経験的データから、$z$ の値は多くの場合 0.2〜0.35 の範囲に収まることが知られています。 プレストン(Frank W. Preston, 1962)は、種の個体数分布が対数正規分布に従うと仮定して、理論的に $z \approx 0.25$ を導きました。 この値は実測データとよく一致します。
| 対象 | $z$ の典型値 | 解釈 |
|---|---|---|
| 海洋島(真の島) | 0.25〜0.35 | 隔離度が高く、移入が制限されるため $z$ が大きい |
| 大陸内の生息地の断片 | 0.15〜0.25 | 隔離度が低く、近隣からの「レスキュー効果」があるため $z$ が小さい |
| 大陸全体の異なる地域 | 0.10〜0.20 | 連続した生息地なので種の移動が容易 |
$z$ 値が何を意味しているか、具体的な数字で確認しましょう。 $z = 0.25$ のとき、面積が10倍になると種数は $10^{0.25} \approx 1.78$ 倍になります。 面積を100倍にしても種数は $100^{0.25} \approx 3.16$ 倍にしかなりません。 つまり、面積の増加に対して種数の増加は緩やかです。逆に言えば、面積が減少したときの種数の減少も「見た目ほど劇的ではない」ということですが、これは後述するSLOSSディベートで重要な論点になります。
マッカーサー・ウィルソンの均衡モデルは、種数面積関係を理論的に説明できるでしょうか。 先ほどの線形モデルでは $\hat{S} = \lambda P / (\lambda + \mu)$ でした。 面積 $A$ が大きいほど絶滅確率 $\mu$ が小さくなるという関係を具体的に仮定しましょう。
絶滅確率が面積のべき乗で減少すると仮定します。$\mu = \mu_0 A^{-\alpha}$($\alpha > 0$)。
また、距離の効果は一定($\lambda$ は固定)とします。均衡種数は、
$$\hat{S} = \frac{\lambda P}{\lambda + \mu_0 A^{-\alpha}}$$
$\lambda \gg \mu_0 A^{-\alpha}$(移入率が十分大きい)の場合は $\hat{S} \approx P$ で面積に依存しません。
逆に $\lambda \ll \mu_0 A^{-\alpha}$(移入率が小さい、すなわち遠い島)の場合は、
$$\hat{S} \approx \frac{\lambda P}{\mu_0} A^{\alpha}$$
これは $S = cA^z$($z = \alpha$)の形です。つまり、隔離された島ほどべき乗則がきれいに成り立ち、$z$ の値は絶滅確率の面積依存性の指数 $\alpha$ に対応します。
この導出は単純化されたものですが、均衡モデルが種数面積関係のべき乗則を自然に導くことを示しています。 $z$ 値が0.2〜0.3に集中する理由は、絶滅確率が面積に対してどの程度敏感に変化するかという、個体群動態の普遍的な性質を反映していると考えられています。
種数面積関係のべき乗則は、生態学で最も堅牢な経験法則の一つです。鳥類、爬虫類、昆虫、植物など、ほぼすべての生物群で成り立ちます。ただし、$z$ と $c$ の値は生物群によって異なります。なぜべき乗則がこれほど普遍的なのかは、いまだに活発な研究テーマです。種の個体数分布の統計的性質(対数正規分布やフィッシャーの対数系列分布)、フラクタル的な生息地構造、中立理論(ハッベルの統一中立理論)など、複数のメカニズムが提案されています。
種数面積関係は数学的にエレガントな法則ですが、科学理論は実験的に検証されなければなりません。 次のセクションでは、マッカーサー・ウィルソンの理論を実験的に検証した大胆な野外実験を見ていきます。
マッカーサー・ウィルソンの理論は数理的に美しいものの、「移入と絶滅の動的均衡が実際に存在するのか」「攪乱後に種数は均衡値に回復するのか」は検証が必要でした。 1969年、ウィルソンの大学院生だったダニエル・シムバロフ(Daniel Simberloff)は、フロリダ・キーズのマングローブの小島群を使った画期的な実験を行いました。
シムバロフとウィルソンは次の手順で実験を進めました。
実験結果は、マッカーサー・ウィルソン理論の予測を見事に支持しました。
この実験が画期的だったのは、生態学の理論を操作実験(意図的に系を撹乱して回復を観察する)で検証した点です。それ以前の島の生物地理学は、自然状態の観察データに基づくパターン記述が主流でした。
島の種数が攪乱後に元の水準に回復すること、そして回復した種の顔ぶれが元と異なること ── この2つの事実が、動的均衡とターンオーバーの概念を実証しました。
この実験にも限界があります。小さなマングローブ島の節足動物群集に限定されており、大きな島の脊椎動物に一般化できるかは不明です。 また、マングローブ島は大陸から非常に近い(数百メートル〜数キロ)ため、距離効果の検証には制約がありました。 さらに、2年間という観察期間は、より遅い生態学的プロセス(遷移や進化)を捉えるには短いものでした。
それでも、この実験は生態学における操作実験の先駆けとして高く評価されており、マッカーサー・ウィルソン理論の基本的な予測を支持する最も直接的な証拠の一つであることに変わりはありません。 次のセクションでは、この理論が保全生物学にどのような影響を与えたかを見ていきます。
マッカーサー・ウィルソンの理論は、純粋な生態学理論を超えて、自然保護区の設計に大きな影響を与えました。 開発によって生息地が分断されると、残された生息地の断片は海の中の「島」と同じ状況に置かれます。 周囲が農地や都市に囲まれた森林パッチは、海洋島と同様に、面積が小さいほど絶滅率が高く、他のパッチから離れているほど移入率が低くなります。
このような「生息地の島嶼化」(habitat fragmentation)に対して、島の生物地理学理論は以下のような保全指針を導きます。
1970〜1980年代、保全生物学で最も激しい論争の一つとなったのが、SLOSSディベートです。 SLOSSとは "Single Large Or Several Small" の頭文字で、「同じ合計面積なら、1つの大きな保護区と複数の小さな保護区のどちらがよいか」という問いです。
| 立場 | 根拠 | 支持者 |
|---|---|---|
| Single Large(1つの大きな保護区) | 種数面積関係から、1つの大きな保護区は合計面積が同じ複数の小さな保護区より多くの種を支えられる。大型動物の行動圏を確保できる | ジャレド・ダイアモンド |
| Several Small(複数の小さな保護区) | 異なる環境を含む複数の保護区を分散配置すれば、より多様な生息環境をカバーでき、異なる種を保全できる。病気や災害のリスクも分散される | ダニエル・シムバロフ |
現在では、SLOSSの二者択一は単純すぎると認識されています。 答えは「保全の目的と対象種、景観構造に依存する」のです。 大型の種や広い行動圏を必要とする種(ゾウ、トラなど)には大きな保護区が不可欠です。 一方、局所的に異なる環境に適応した固有種群を保全するには、複数の小さな保護区を分散配置するほうが効果的な場合もあります。 重要なのは、保護区間の連結性(コリドーやステッピングストーン)を確保することで、SLOSS論争を超えた統合的なアプローチが現在の主流です。
1990年代以降、島の生物地理学理論はレヴィンス(Richard Levins)のメタ個体群理論(metapopulation theory)と融合しました。 メタ個体群とは、空間的に分かれた複数の局所個体群(パッチ)が、個体の移動によって結びついた「個体群の個体群」です。
レヴィンスのメタ個体群モデルでは、パッチの占有率 $p$(種が存在するパッチの割合)の時間変化は、
$$\frac{dp}{dt} = cp(1-p) - ep$$
と書けます。ここで $c$ はコロニゼーション(定着)率、$e$ は局所絶滅率です。 第1項 $cp(1-p)$ は「占有パッチ($p$)から空きパッチ($1-p$)への定着」を表し、第2項 $ep$ は「占有パッチの絶滅」を表します。
この構造は、マッカーサー・ウィルソンの均衡モデルと本質的に同じです。 移入が定着に、島上の絶滅が局所絶滅に対応します。 均衡占有率は $\hat{p} = 1 - e/c$ であり、$c > e$ のとき(定着率が絶滅率より大きいとき)種は存続します。
メタ個体群理論は、島の生物地理学理論を「種レベルの移入・絶滅」から「個体群レベルの定着・絶滅」に拡張したものと見ることができます。 生息地の分断が進む現代では、個体群のネットワーク構造(どのパッチがどの程度つながっているか)が種の存続を左右するため、メタ個体群の視点は保全実務に不可欠です。
2001年、スティーブン・ハッベル(Stephen Hubbell)は『生物多様性の統一中立理論(The Unified Neutral Theory of Biodiversity and Biogeography)』を発表しました。この理論は、マッカーサー・ウィルソンのモデルをさらに推し進め、「すべての種は生態学的に等価である(中立である)」と仮定します。つまり、種間の競争能力やニッチの違いを無視し、個体レベルの確率的な出生・死亡・移動だけで群集構造を説明しようとするものです。この仮定は明らかに非現実的ですが、中立理論は種数面積関係や種の個体数分布といったマクロなパターンを驚くほどよく再現します。現在では、中立的なプロセスとニッチに基づくプロセスの相対的な重要性を定量的に評価する研究が進んでいます。
島の生物地理学理論は、1960年代の純粋な生態学理論から出発し、保全生物学の理論的基盤となり、メタ個体群理論や中立理論へと発展しました。 次のセクションでは、この理論と他の記事との関連を確認します。
Q1. マッカーサー・ウィルソンの均衡モデルにおいて、島の種数 $S$ が増えると移入率 $I(S)$ が低下する理由を説明してください。
Q2. 大陸から遠い島と近い島で種数が異なる理由を、均衡モデルの移入率曲線と絶滅率曲線を使って説明してください。
Q3. 種数面積関係 $S = cA^z$ において、$z = 0.25$ のとき島の面積が半分になると種数は何%減少しますか。
Q4. シムバロフ・ウィルソンのマングローブ実験で、燻蒸後の島の種数が元の水準に回復したにもかかわらず種の顔ぶれが異なっていた事実は、マッカーサー・ウィルソン理論のどの概念を実証していますか。
大陸に $P = 200$ 種の鳥類がいるとします。ある島への1種あたりの移入確率が $\lambda = 0.02$(年$^{-1}$)、1種あたりの絶滅確率が $\mu = 0.03$(年$^{-1}$)であるとき、以下を求めてください。
(a) 均衡種数 $\hat{S}$ を求めてください。
(b) 均衡状態でのターンオーバー率 $T$(年あたりの移入=絶滅の種数)を求めてください。
(c) もしこの島が大陸に2倍近い場所にあり、$\lambda$ が $0.04$ に倍増した場合、新しい均衡種数を求めてください。
(a) $\hat{S} = \dfrac{\lambda P}{\lambda + \mu} = \dfrac{0.02 \times 200}{0.02 + 0.03} = \dfrac{4}{0.05} = 80$ 種
(b) $T = I(\hat{S}) = \lambda(P - \hat{S}) = 0.02 \times (200 - 80) = 0.02 \times 120 = 2.4$(種/年)。または $T = E(\hat{S}) = \mu \hat{S} = 0.03 \times 80 = 2.4$(種/年)。いずれも一致します。
(c) $\hat{S} = \dfrac{0.04 \times 200}{0.04 + 0.03} = \dfrac{8}{0.07} \approx 114$ 種。大陸に近いほど均衡種数が多くなることが確認できます。
次の記述が正しいか誤りかを判定し、誤りの場合は正しく訂正してください。
(a) マッカーサー・ウィルソンの均衡モデルによれば、島の種数が均衡に達すると、移入も絶滅も起こらなくなる。
(b) 種数面積関係 $S = cA^z$ において、$z = 0.3$ は面積が10倍になると種数が3倍になることを意味する。
(c) 大陸から遠い島ほど絶滅率曲線が上方にシフトするため、均衡種数が少なくなる。
(a) 誤り。均衡状態でも移入と絶滅は常に起こり続けています。移入する種数と絶滅する種数が等しくなるため総種数が一定に保たれるのであり、変化が止まるわけではありません。
(b) 誤り。$z = 0.3$ のとき、面積が10倍になると種数は $10^{0.3} \approx 2.0$ 倍です(3倍ではない)。$\log$ の関係から $S' = c(10A)^{0.3} = cA^{0.3} \cdot 10^{0.3} = S \times 10^{0.3}$ です。
(c) 誤り。大陸から遠い島ほど移入率曲線が下方にシフトするため均衡種数が少なくなります。絶滅率曲線は島の面積に依存し、距離には直接依存しません。
熱帯雨林の90%が伐採により失われたとします。種数面積関係 $S = cA^z$($z = 0.25$)を用いて、以下の問いに答えてください。
(a) 元の面積を $A$ として、伐採後の面積 $A' = 0.1A$ のときの種数を元の種数 $S$ の何%として表してください。
(b) この推定にはどのような限界がありますか。少なくとも2つ挙げてください。
(a) $S' = c(0.1A)^{0.25} = cA^{0.25} \cdot 0.1^{0.25} = S \cdot 0.1^{0.25}$。$0.1^{0.25} = (10^{-1})^{0.25} = 10^{-0.25} \approx 0.562$。したがって、元の約56%の種が残る。逆に言えば、面積の90%を失うと種数の約44%が失われると予測されます。
(b) (1) 種数面積関係は均衡状態の種数を予測するものであり、面積が減少した直後には「絶滅の負債」(extinction debt)が存在し、すぐには種数が減らない。時間の経過とともに徐々に種が失われていくため、短期的な種数と長期的な均衡種数は異なる。(2) $z$ の値は生物群や地域によって異なり、大陸内の生息地断片の $z$(0.15〜0.25)と海洋島の $z$(0.25〜0.35)は異なるため、どの $z$ を使うかで推定値が大きく変わる。(3) 残された生息地の形状・連結性が考慮されていない。細長い帯状の保護区と円形の保護区では、同じ面積でもエッジ効果が異なり、種の維持能力が変わる。
種数面積関係を使った絶滅予測は保全生物学で広く使われますが、「面積の減少 → 種数の減少」は瞬時には起こらず、数十年〜数百年のタイムラグ(絶滅の負債)がある点に注意が必要です。面積が減少した直後にはまだ多くの種が残っているように見えますが、これは見かけ上の安心にすぎず、将来的に種数が減少していくことが予想されます。
SLOSSディベート(Single Large Or Several Small)について、以下の問いに答えてください。
(a) 合計面積が同じとき、「1つの大きな保護区」が有利な場合の根拠を、種数面積関係に基づいて説明してください。
(b) 一方で、「複数の小さな保護区」が有利な場合はどのようなときか、具体例を挙げて説明してください。
(c) 現在の保全生態学ではSLOSSディベートはどのように決着しているか、簡潔に述べてください。
(a) 種数面積関係 $S = cA^z$ はべき乗則であり、$z < 1$ のため、面積と種数の関係は凹型です。したがって、1つの大きな保護区(面積 $A$)の種数 $cA^z$ は、$n$ 個の小さな保護区(各面積 $A/n$)の1つあたりの種数 $c(A/n)^z$ より多くなります。すべての小さな保護区の種が完全に重複していれば、大きな保護区のほうが多くの種を保全できます。
(b) 複数の小さな保護区が異なる環境(低地林、山地林、湿地など)を含む場合、各保護区に異なる種が生息するため、重複が少なく合計種数が増えます。例えば、日本の里山では、谷戸の湿地、丘陵の雑木林、水田など異なる環境のモザイクが多様な種を支えています。1つの大きな均質な保護区よりも、異なる環境を含む複数の小さな保護区を分散配置するほうが、ベータ多様性(生息地間の種の違い)を保全できます。
(c) 単純な二者択一ではなく、保全の目的(どの種・群集を守るか)、景観構造(環境の異質性)、対象種の生態(行動圏の広さ、分散能力)に応じて判断すべきとされています。また、保護区間の連結性(コリドー)を確保することの重要性が広く認識されており、「大きいか小さいか」よりも「つながっているか」が鍵と考えられています。
レヴィンスのメタ個体群モデル $\dfrac{dp}{dt} = cp(1-p) - ep$ について、以下の問いに答えてください。
(a) 平衡点をすべて求めてください。
(b) 各平衡点の安定性を、線形安定性解析を用いて調べてください。
(c) $e/c$ の値が増加すると(例えば生息地の分断が進むと)、メタ個体群にどのような影響があるかを数学的に説明してください。
(d) このモデルとマッカーサー・ウィルソンの均衡モデルの構造的な類似点を述べてください。
(a) $dp/dt = cp(1-p) - ep = p[c(1-p) - e] = p[c - cp - e] = 0$ より、$p^* = 0$ または $c - cp - e = 0 \Rightarrow p^* = 1 - e/c$。ただし $p^*$ は $0 \le p \le 1$ の範囲で意味を持つので、$e < c$ のとき $p^* = 1 - e/c > 0$ が非自明な平衡点です。
(b) $g(p) = cp(1-p) - ep$ とおくと、$g'(p) = c - 2cp - e$。
$p^* = 0$ のとき:$g'(0) = c - e$。$c > e$ なら $g'(0) > 0$(不安定)、$c < e$ なら $g'(0) < 0$(安定)。
$p^* = 1 - e/c$ のとき:$g'(1-e/c) = c - 2c(1-e/c) - e = c - 2c + 2e - e = -(c - e)$。$c > e$ なら $g'(p^*) = -(c-e) < 0$(安定)。
まとめ:$c > e$ のとき、$p^* = 0$ は不安定、$p^* = 1 - e/c$ は安定。$c < e$ のとき、$p^* = 0$ のみが安定で、種は絶滅します。
(c) $e/c$ が増加すると、非自明な平衡点 $p^* = 1 - e/c$ が減少します。$e/c \to 1$ で $p^* \to 0$ となり、$e/c \ge 1$ で非自明な平衡点が消失してメタ個体群は絶滅します。生息地の分断が進み局所絶滅率 $e$ が上がるか、パッチ間の連結性が失われて定着率 $c$ が下がると、$e/c$ が増加し、種の存続が脅かされます。これは保全の文脈で「閾値効果」と呼ばれ、ある臨界点を超えると急速に個体群が崩壊することを意味します。
(d) 両モデルとも「入る速度」と「出る速度」のバランスで均衡が決まる構造を持ちます。マッカーサー・ウィルソンモデルでは移入率 $I(S) = \lambda(P-S)$ と絶滅率 $E(S) = \mu S$ の交点が均衡種数 $\hat{S}$ を、レヴィンスモデルではコロニゼーション率 $cp(1-p)$ と局所絶滅率 $ep$ の交点が均衡占有率 $\hat{p}$ を決めます。いずれも「未占有の余地」($P-S$ や $1-p$)に比例する増加項と、「現在の量」($S$ や $p$)に比例する減少項のバランスです。
レヴィンスのメタ個体群モデルは、ロジスティック方程式(B-14-1)とも構造が似ています。$dp/dt = cp(1-p) - ep = (c-e)p - cp^2$ と書き直すと、内的自然増加率 $r = c - e$、環境収容力 $K = 1 - e/c$ のロジスティック方程式と本質的に同じ形です。生態学の多くのモデルが「増加する力と抑制する力のバランス」という共通の構造を持つことが見て取れます。