高校生物で学んだS字型の成長曲線を覚えていますか。個体数は最初ゆっくり増え、やがて急増し、環境収容力 $K$ に近づくと頭打ちになる ── あのカーブです。
高校では「環境抵抗が働くからS字型になる」と定性的に説明されましたが、なぜあの形になるのかを数式で示すことはありませんでした。
大学生物学では、たった一つの微分方程式 $\dfrac{dN}{dt} = rN\!\left(1 - \dfrac{N}{K}\right)$ からS字型曲線を導出します。
驚くべきことに、内的自然増加率 $r$ と環境収容力 $K$ という2つのパラメータだけで、個体群の成長・平衡・安定性をすべて予測できるのです。
さらに、この方程式を離散時間に書き換えると、決定論的な式からカオスが生まれるという衝撃的な事実が明らかになります。
本記事では、指数増殖モデルから出発し、ロジスティック方程式を導出し、その解の性質・安定性・離散化によるカオスまでを一本の筋でたどります。
高校生物では、個体群の成長曲線を2つのパターンで学びました。
食物や空間に制限がなく、天敵もいない理想的な環境では、個体群は世代ごとに一定の倍率で増え続けます。 グラフにすると右上に急カーブを描くJ字型になります。 実験室で大腸菌を新しい培地に植えたときの増殖初期や、外来種が新しい環境に侵入した直後にこのパターンが見られます。
現実の環境では、食物・空間・光などの資源は有限です。 個体数が増えると個体あたりの資源量が減り、出生率の低下や死亡率の上昇が起こります。 これが密度効果です。 密度効果により成長は次第に鈍化し、個体数はある上限値に漸近します。 この上限値を環境収容力($K$)と呼びます。 グラフはS字型(シグモイド曲線)を描きます。
高校では、「なぜJ字型ではなくS字型になるのか」に対する答えは「環境抵抗が働くから」でした。 しかし、「環境抵抗」とは具体的にどのような数学的メカニズムなのか、なぜ直線でも放物線でもなくS字型になるのかは説明されませんでした。 次のセクションでは、大学レベルでこの問いにどう答えるかを見ていきます。
ロジスティック方程式は、内的自然増加率 $r$(個体がどれだけ速く増えるか)と環境収容力 $K$(環境が何個体を支えられるか)という、たった2つのパラメータで個体群動態を記述します。
この方程式から、(1) S字型曲線が自然に導かれること、(2) 個体数 $N = K$ が安定な平衡点であること、(3) 最大成長速度は $N = K/2$ のときに達成されること、が数学的に証明されます。
さらに驚くべきことに、時間を離散的に扱うと、同じ方程式の構造から周期振動やカオスが出現し、「単純な規則から複雑な挙動が生まれる」ことを示します。
では、ロジスティック方程式はどのようにして導かれるのでしょうか。 まず指数増殖の数学的表現から出発し、その限界を認識することで、ロジスティック方程式に至る道筋をたどります。
個体群の増殖を数式で表す最も単純なモデルは、指数増殖モデル(マルサスモデル)です。 時刻 $t$ における個体数を $N(t)$ とし、1個体あたりの単位時間あたりの増加率(出生率 $-$ 死亡率)を $r$ とします。 $r$ を内的自然増加率(intrinsic rate of natural increase)と呼びます。
$$\frac{dN}{dt} = rN$$
$N$:個体数、$r$:内的自然増加率($r > 0$ で増加、$r < 0$ で減少)、$t$:時間。 この式は「個体数の変化速度は、現在の個体数に比例する」ことを意味します。
この微分方程式の解は $N(t) = N_0 e^{rt}$($N_0$ は初期個体数)です。 $r > 0$ のとき、個体数は指数関数的に増大し、J字型のグラフになります。
指数増殖モデルには決定的な欠陥があります。$r > 0$ であれば個体数は無限大に発散します。 ダーウィンは『種の起源』で次のような計算を示しました。 ゾウは最も繁殖の遅い動物の一つですが、1組のつがいから始めて年間増加率を見積もると、750年後には約1900万頭に達します。 明らかに、地球上のすべての種が指数増殖を続けることは不可能です。
問題は、このモデルが個体数によらず1個体あたりの増加率が $r$ で一定であると仮定していることです。 現実には、個体数が増えると食物をめぐる競争が激化し、1個体あたりの増加率は低下します。 この「密度に依存した増加率の低下」をモデルに組み込む必要があります。
1個体あたりの増加率(per capita growth rate)を $f(N)$ とすると、一般に
$$\frac{dN}{dt} = f(N) \cdot N$$
と書けます。指数増殖では $f(N) = r$(定数)でしたが、密度効果を入れるには $f(N)$ が $N$ の増加とともに減少する関数である必要があります。 最も単純な仮定は、$f(N)$ が $N$ の1次関数(線形)として減少するというものです。
$N = 0$ のとき $f(0) = r$(個体数がごく少数なら、競争がなく最大の増加率を発揮できる)、 $N = K$ のとき $f(K) = 0$(環境収容力に達すると増加率がゼロになる)という2つの条件を置くと、
$$f(N) = r\left(1 - \frac{N}{K}\right)$$
と決まります。これを代入すると、ロジスティック方程式が得られます。
$$\frac{dN}{dt} = rN\left(1 - \frac{N}{K}\right)$$
$r$:内的自然増加率、$K$:環境収容力。 因子 $(1 - N/K)$ は「まだ使える環境容量の割合」を表します。 $N \ll K$ のとき $(1 - N/K) \approx 1$ で指数増殖に近づき、$N \to K$ のとき $(1 - N/K) \to 0$ で増殖が停止します。 この方程式は1838年にベルギーの数学者フェルフルスト(Pierre-Francois Verhulst)が提案しました。
ロジスティック方程式の右辺を分解して、各部分の生物学的意味を確認しましょう。
右辺を展開すると $dN/dt = rN - rN^2/K$ となり、第2項 $-rN^2/K$ が密度効果を表す負のフィードバック項であることが明確に見えます。 $N^2$ に比例するのは、個体間の競争的相互作用が個体数の組み合わせ(ペア数)に比例するという解釈に対応しています。
注意:ロジスティック方程式は「1個体あたりの増加率が個体数に対して線形に減少する」という仮定に基づいています。これは最も単純な仮定であり、すべての生物種に当てはまるわけではありません。
重要:アリー効果(個体数が少なすぎると増加率が下がる現象)がある種では、このモデルは適用できません。モデルの限界を理解した上で使うことが大切です。
ロジスティック方程式が導かれたところで、次はこの微分方程式を実際に解き、S字型曲線がどのように現れるかを確認します。
ロジスティック方程式は変数分離形の常微分方程式なので、解析的に解くことができます。
変数分離を行います。
$$\frac{dN}{N(1 - N/K)} = r\,dt$$
左辺を部分分数分解します。
$$\frac{1}{N(1 - N/K)} = \frac{1}{N} + \frac{1/K}{1 - N/K}$$
両辺を積分します。
$$\int \left(\frac{1}{N} + \frac{1/K}{1 - N/K}\right)dN = \int r\,dt$$
$$\ln N - \ln\!\left(1 - \frac{N}{K}\right) = rt + C$$
$$\ln\frac{N}{1 - N/K} = rt + C$$
初期条件 $N(0) = N_0$ を代入して $C$ を決定し、$N$ について解くと、
$$N(t) = \frac{K}{1 + \left(\dfrac{K - N_0}{N_0}\right)e^{-rt}}$$
$$N(t) = \frac{K}{1 + \left(\dfrac{K - N_0}{N_0}\right)e^{-rt}}$$
$N_0$:初期個体数、$r$:内的自然増加率、$K$:環境収容力。 $t \to \infty$ で $e^{-rt} \to 0$ なので $N(t) \to K$。これがS字型曲線の数学的な正体です。
この解を見ると、高校で学んだS字型曲線の特徴がすべて読み取れます。
個体群の増殖速度 $dN/dt$ が最大になるのはどの時点でしょうか。 $dN/dt = rN(1 - N/K)$ は $N$ の2次関数(上に凸の放物線)であり、最大値は放物線の頂点で達成されます。
$$\frac{d}{dN}\left[rN\left(1 - \frac{N}{K}\right)\right] = r - \frac{2rN}{K} = 0$$
これを解くと $N = K/2$ です。つまり、個体数が環境収容力の半分のときに増殖速度が最大になります。 このときの最大増殖速度は、
$$\left.\frac{dN}{dt}\right|_{N=K/2} = r \cdot \frac{K}{2} \cdot \left(1 - \frac{1}{2}\right) = \frac{rK}{4}$$
です。この結果は漁業管理において極めて重要な意味を持ちます(セクション6で詳述)。
平衡点(equilibrium point)とは、$dN/dt = 0$ となる個体数、すなわち個体数が変化しなくなる点です。 ロジスティック方程式 $dN/dt = rN(1 - N/K) = 0$ を解くと、2つの平衡点が得られます。
$$N^* = 0 \quad \text{および} \quad N^* = K$$
しかし、平衡点が存在するだけでは不十分です。生態学で重要なのは、その平衡点が安定かどうかです。 すなわち、個体数が平衡点から少しずれたとき、元に戻るか(安定)、離れていくか(不安定)を調べる必要があります。
$dN/dt = g(N)$ とおき、平衡点 $N^*$ のまわりで微小な摂動 $\varepsilon = N - N^*$ を考えます。
$$\frac{d\varepsilon}{dt} = \frac{dN}{dt} = g(N^* + \varepsilon) \approx g(N^*) + g'(N^*)\varepsilon = g'(N^*)\varepsilon$$
($g(N^*) = 0$ なので消えます。)この近似式は $\varepsilon(t) = \varepsilon_0 e^{g'(N^*)t}$ を解に持ちます。
- $g'(N^*) < 0$ のとき:摂動は時間とともに減衰する → 安定
- $g'(N^*) > 0$ のとき:摂動は時間とともに増大する → 不安定
ロジスティック方程式に適用しましょう。$g(N) = rN(1 - N/K)$ の導関数は、
$$g'(N) = r - \frac{2rN}{K} = r\left(1 - \frac{2N}{K}\right)$$
各平衡点で評価すると、
| 平衡点 | $g'(N^*)$ の値 | 安定性 | 生物学的意味 |
|---|---|---|---|
| $N^* = 0$ | $g'(0) = r > 0$ | 不安定 | 少数の個体がいれば増殖が始まる |
| $N^* = K$ | $g'(K) = -r < 0$ | 安定 | $K$ からずれても $K$ に戻る |
$N^* = 0$ が不安定であるとは、ほんの少しでも個体がいれば個体数は $0$ から離れていく(増殖する)ことを意味します。 $N^* = K$ が安定であるとは、何らかの攪乱で個体数が $K$ からずれても、密度効果によって $K$ に回復することを意味します。 これが「環境収容力 $K$ は安定平衡点である」ことの数学的な証明です。
平衡点が安定か不安定かは、その系の長期的な挙動を決めます。安定な平衡点は「引き込み先」(アトラクター)として機能し、不安定な平衡点は「反発点」(リペラー)として機能します。生態学では、ある個体群が絶滅するか存続するかという問いに直結するため、安定性解析は極めて実用的な意味を持ちます。
連続時間のロジスティック方程式では、個体数は滑らかにS字型のカーブを描いて $K$ に収束します。 しかし、世代が明確に分かれる生物(一年生植物や多くの昆虫など)では、時間を離散的に扱うのが自然です。 次のセクションでは、離散時間モデルに書き換えたときに何が起こるかを見ていきます。
連続時間のロジスティック方程式は、世代が重なる生物(ヒト、哺乳類の多く)に適しています。 しかし、一年生の昆虫(例:ある種のバッタ)のように世代が重ならず、親世代が産卵後に死亡する生物では、個体数は年ごとに不連続にジャンプします。 このような場合は離散時間モデル(差分方程式)のほうが適切です。
連続モデルを離散化する最も有名な形は、次のロジスティック写像(logistic map)です。
$$N_{t+1} = r \cdot N_t \left(1 - \frac{N_t}{K}\right)$$
$N_t$:世代 $t$ の個体数、$r$:離散的な増殖率パラメータ(連続モデルの $r$ とは定義が異なることに注意)。 $x_t = N_t / K$ と変数変換すると、正規化された形 $x_{t+1} = r \cdot x_t(1 - x_t)$ が得られます。
正規化された形 $x_{t+1} = rx_t(1 - x_t)$ を使って、パラメータ $r$ を変化させたときの挙動を調べましょう。
離散ロジスティック写像は、$r$ の値に応じて劇的に異なる挙動を示します。 これはロバート・メイ(Robert May)が1976年の画期的な論文 "Simple mathematical models with very complicated dynamics" で明らかにしました。
| $r$ の範囲 | 挙動 | 生物学的解釈 |
|---|---|---|
| $0 < r < 1$ | 個体群は絶滅に向かう | 増殖率が低すぎて維持できない |
| $1 < r < 3$ | 安定な平衡点 $x^* = 1 - 1/r$ に収束 | 密度効果が適度に働き、安定的に維持される |
| $3 < r < 3.449\ldots$ | 周期2の振動(2点間を交互に行き来) | 密度効果の遅れにより、個体数が多い年と少ない年が交互に現れる |
| $3.449\ldots < r < 3.570\ldots$ | 周期倍分岐:周期4→8→16→… | 振動パターンがさらに複雑化する |
| $r > 3.570\ldots$ | カオス(一見ランダムな挙動) | 決定論的な規則から予測不可能な変動が生まれる |
カオスとは、完全に決定論的なシステム(ランダムな要素が一切ない)にもかかわらず、長期的な予測が実質的に不可能になる現象です。 カオスの核心は初期値鋭敏性にあります。 初期値のわずかな差が、時間の経過とともに指数関数的に拡大するため、初期条件を無限の精度で知らない限り、将来の個体数を正確に予測できません。
メイの発見が画期的だったのは、$x_{t+1} = rx_t(1 - x_t)$ というこれ以上ないほど単純な式から、予測不能な複雑な挙動が生まれることを示した点です。
それ以前、生態学者が野外で観測する個体数の不規則な変動は、天候や偶然の事故などの外的な確率的要因によるものだと考えられていました。しかしメイは、不規則な変動が個体群の内部力学そのものから生じうることを証明したのです。
これは生態学のパラダイムを変えました。個体数の不規則な変動を観測したとき、それが外的ノイズによるものか内的カオスによるものかを区別する必要が生じたのです。
なぜ $r$ を増やすと安定平衡→周期2→周期4→…→カオスという遷移が起こるのでしょうか。 直感的には、$r$ が大きいほど「密度効果のフィードバックが過剰に働く」と理解できます。
$r$ が大きいとき、ある世代で個体数が多いと、次の世代では $(1 - N_t/K)$ の項が強く効いて個体数が大きく減ります。 すると次の次の世代では密度効果が弱まり、再び大きく増えます。 $r$ がある閾値を超えると、この「行き過ぎ→反動→行き過ぎ」が収束せずに振動が持続します。 $r$ をさらに大きくすると、振動のパターン自体がより複雑な周期を持つようになり、最終的にカオスに至ります。
周期倍分岐が起こる $r$ の値の間隔は、次第に狭くなっていきます。その縮小比は、$r$ の値に依存せず、$\delta = 4.669\ldots$ という普遍的な定数に収束します。これをファイゲンバウム定数と呼びます。驚くべきことに、この定数はロジスティック写像に限らず、ほぼすべての単峰写像に共通して現れます。これは「カオスへの道」に普遍的な構造があることを示しています。
離散ロジスティック写像でカオスが現れるのは $r > 3.57$ のときです。 実際の生物種でこのような高い $r$ を持つものは限られますが、研究室の昆虫個体群(コクゾウムシなど)で周期振動やカオス的な変動が確認された例があります。 しかし、野外の個体群でカオスが支配的かどうかは今なお議論が続いています。 環境変動(確率的要因)とカオス(決定論的要因)を区別すること自体が、生態学の重要な研究課題です。
ここまでで、ロジスティック方程式の理論的な側面を見てきました。 次のセクションでは、この理論が実際の生態学や資源管理にどう応用されるかを見ていきます。
マッカーサーとウィルソン(1967年)が提唱したr-K 選択説は、ロジスティック方程式の2つのパラメータに直接対応する生活史戦略の理論です。
ロジスティック方程式の観点から見ると、$N \ll K$ では $dN/dt \approx rN$ なので $r$ の大きさが重要であり、$N \approx K$ では効率的な資源利用($K$ を高める能力)が重要です。r-K 選択説は現在では単純すぎるとして批判もありますが、生活史戦略を考える出発点としての価値は失われていません。
ロジスティック方程式の最も実用的な応用の一つが、最大持続生産量(Maximum Sustainable Yield, MSY)の概念です。
セクション4で示したように、個体群の増殖速度 $dN/dt$ は $N = K/2$ のときに最大値 $rK/4$ をとります。 これは、個体数を $K/2$ に維持すれば、単位時間あたり最大量の個体を収穫しても個体群は維持されることを意味します。
$$\text{MSY} = \frac{rK}{4}$$
このとき、個体数は $N = K/2$ に維持される。
MSYは漁業資源管理の基本原理として世界中で使われています。 ただし、現実にはパラメータ $r$ と $K$ の正確な推定が困難であり、環境変動も加わるため、MSYを過信すると乱獲につながる危険があります。 このため、現代の漁業管理ではMSYよりも保守的な管理基準が用いられることが多くなっています。
侵入初期の外来種は個体数が少なく、$N \ll K$ の状態にあります。 このとき $dN/dt \approx rN$ なので、増殖はほぼ指数関数的です。 $r$ が大きい(r 戦略的な)外来種ほど急速に増殖し、対策が困難になります。
外来種の管理においてロジスティック方程式から得られる重要な教訓は、個体数が少ないうちに対策を打つことの重要性です。 個体数が $K$ に近づいてしまうと、除去しても密度効果が弱まって速やかに回復してしまいます。 逆に、初期段階で個体数をゼロに近づけることができれば、$N^* = 0$ は不安定平衡点であるため、完全な除去が達成できれば再増殖は起こりません。
現実の生物では、密度効果が瞬時には現れず、時間遅れ(タイムラグ)を伴うことがあります。 例えば、食物が不足してから出生率が下がるまでに妊娠期間分の遅れがあります。 時間遅れ $\tau$ を導入したロジスティック方程式は、
$$\frac{dN}{dt} = rN(t)\left(1 - \frac{N(t - \tau)}{K}\right)$$
と書けます。$r\tau$ の値が大きいと、個体群は $K$ に滑らかに収束せず、$K$ のまわりを振動します。 $r\tau > \pi/2$ のとき振動は減衰せず、持続的な周期振動が現れます。 これは離散時間モデルでの振動と同じメカニズムです。密度効果の「反応が遅い」ことが、個体数のオーバーシュートとアンダーシュートを引き起こすのです。
ロジスティック方程式は、単独種の個体群動態の基礎モデルです。 しかし、自然界では種は他種と相互作用しながら暮らしています。 次のセクションでは、ロジスティック方程式を出発点として、他のどのようなモデルにつながっていくかを見ていきます。
Q1. ロジスティック方程式 $dN/dt = rN(1 - N/K)$ において、因子 $(1 - N/K)$ の生物学的意味を説明してください。
Q2. ロジスティック方程式の2つの平衡点を示し、それぞれが安定か不安定かを理由とともに答えてください。
Q3. 個体群の増殖速度 $dN/dt$ が最大になるのは $N$ がいくつのときですか。また、そのときの増殖速度の値を $r$ と $K$ で表してください。
Q4. 離散ロジスティック写像において、パラメータ $r$ を大きくしていくと挙動がどのように変化するか、4段階で説明してください。
ある個体群の内的自然増加率が $r = 0.5$(年$^{-1}$)、環境収容力が $K = 1000$ 個体であるとします。
(a) 現在の個体数が $N = 100$ のとき、個体群の増殖速度 $dN/dt$ を求めてください。
(b) 現在の個体数が $N = 500$ のとき、$dN/dt$ を求めてください。
(c) 現在の個体数が $N = 900$ のとき、$dN/dt$ を求めてください。
(d) (a)~(c) の結果から、増殖速度が最大になる個体数を推測し、理論値と比較してください。
$dN/dt = rN(1 - N/K) = 0.5 \cdot N \cdot (1 - N/1000)$ に代入します。
(a) $dN/dt = 0.5 \times 100 \times (1 - 0.1) = 50 \times 0.9 = 45$(個体/年)
(b) $dN/dt = 0.5 \times 500 \times (1 - 0.5) = 250 \times 0.5 = 125$(個体/年)
(c) $dN/dt = 0.5 \times 900 \times (1 - 0.9) = 450 \times 0.1 = 45$(個体/年)
(d) (b) が最大です。理論値は $N = K/2 = 500$ で最大増殖速度 $rK/4 = 0.5 \times 1000/4 = 125$。計算結果と一致します。
次の記述が正しいか誤りかを判定し、誤りの場合は正しく訂正してください。
(a) 指数増殖モデルでは、個体数が多いほど1個体あたりの増加率が高くなる。
(b) ロジスティック方程式において、$N > K$ のとき個体数は減少する。
(c) 環境収容力 $K$ はロジスティック方程式の不安定平衡点である。
(a) 誤り。指数増殖モデル $dN/dt = rN$ では、1個体あたりの増加率 $(1/N)(dN/dt) = r$ は定数であり、個体数に依存しません。
(b) 正しい。$N > K$ のとき $(1 - N/K) < 0$ なので $dN/dt < 0$ となり、個体数は減少します。
(c) 誤り。$K$ は安定平衡点です。$g'(K) = -r < 0$ なので、$K$ からずれた個体数は $K$ に戻ります。不安定平衡点は $N = 0$ です。
ロジスティック方程式の解 $N(t) = \dfrac{K}{1 + \left(\dfrac{K - N_0}{N_0}\right)e^{-rt}}$ の変曲点が $N = K/2$ のときに現れることを示してください。
ヒント:$d^2N/dt^2 = 0$ となる条件を求めてください。$dN/dt = rN(1 - N/K)$ の両辺を $t$ で微分し、$d^2N/dt^2 = 0$ とおきます。
$dN/dt = rN(1 - N/K) = rN - rN^2/K$ の両辺を $t$ で微分します。
$$\frac{d^2N}{dt^2} = r\frac{dN}{dt} - \frac{2rN}{K}\frac{dN}{dt} = \frac{dN}{dt}\left(r - \frac{2rN}{K}\right)$$
$d^2N/dt^2 = 0$ となるのは、$dN/dt = 0$ または $r - 2rN/K = 0$ のときです。
$dN/dt = 0$ は平衡点($N = 0$ または $N = K$)に対応し、変曲点ではありません。
$r - 2rN/K = 0$ を解くと $N = K/2$ です。
したがって、変曲点は $N = K/2$ のときに現れます。
変曲点 $N = K/2$ は、増殖速度 $dN/dt$ が最大になる点に対応します。$N < K/2$ では増殖が加速し、$N > K/2$ では増殖が減速します。グラフ上では、S字型曲線がこの点で「上に凸」から「下に凸」に切り替わります。
ある漁場の魚種について、$r = 0.4$(年$^{-1}$)、$K = 10000$(トン)と推定されています。
(a) 最大持続生産量(MSY)を計算してください。
(b) MSY を達成するために、個体群をどの水準に維持すべきですか。
(c) 現在の個体群量が $N = 8000$ トンであるとき、持続可能な年間漁獲量はいくらですか。
(d) 「MSY だけに基づく漁業管理は危険である」と言われる理由を2つ挙げてください。
(a) $\text{MSY} = rK/4 = 0.4 \times 10000 / 4 = 1000$(トン/年)
(b) $N = K/2 = 5000$ トンに維持すべきです。
(c) $N = 8000$ のとき、$dN/dt = 0.4 \times 8000 \times (1 - 8000/10000) = 3200 \times 0.2 = 640$(トン/年)。持続可能な漁獲量は年間640トンです。
(d) (1) $r$ と $K$ の推定には大きな不確実性があり、過大推定すると乱獲になる。(2) ロジスティック方程式は環境変動(海水温の変化、エルニーニョなど)を考慮していないため、環境が悪化したときに MSY で漁獲し続けると個体群が崩壊するリスクがある。
離散ロジスティック写像 $x_{t+1} = rx_t(1 - x_t)$ の平衡点を求め、その安定条件を導いてください。
(a) 平衡点 $x^*$($x_{t+1} = x_t = x^*$ を満たす値)をすべて求めてください。
(b) 各平衡点の安定性を調べるために、写像 $f(x) = rx(1-x)$ の導関数 $f'(x)$ を求めてください。
(c) 平衡点 $x^*$ が安定であるための条件は $|f'(x^*)| < 1$ です。非自明な平衡点 $x^* = 1 - 1/r$ が安定であるための $r$ の範囲を求めてください。
(d) (c) の結果から、$r = 3$ を境に何が起こるかを説明してください。
(a) $x^* = rx^*(1 - x^*)$ より、$x^*(rx^* - r + 1) = 0$。
$x^* = 0$ または $x^* = 1 - 1/r$($r \neq 0$)。
(b) $f(x) = rx(1-x) = rx - rx^2$ より、$f'(x) = r - 2rx = r(1 - 2x)$。
(c) $x^* = 1 - 1/r$ を代入すると、
$$f'(x^*) = r\left(1 - 2\left(1 - \frac{1}{r}\right)\right) = r\left(-1 + \frac{2}{r}\right) = 2 - r$$
安定条件 $|f'(x^*)| < 1$ より $|2 - r| < 1$、すなわち $1 < r < 3$。
(d) $r < 3$ では平衡点 $x^* = 1 - 1/r$ は安定であり、個体数はこの値に収束します。$r = 3$ で $f'(x^*) = -1$ となり安定性を失います。$r > 3$ では平衡点が不安定になり、周期2の軌道が出現します(周期倍分岐)。これがカオスへの道の第一歩です。
離散写像の安定性条件 $|f'(x^*)| < 1$ は、連続系の $g'(N^*) < 0$ と対応する考え方です。連続系では平衡点は常に安定($r > 0$ のとき)でしたが、離散系では $r$ が大きくなると不安定化します。これは離散系特有の「行き過ぎ」(オーバーシュート)が原因です。$f'(x^*) = 2 - r$ が負になると、個体数は平衡点の「向こう側」にジャンプし、振動が発生します。$|f'(x^*)| < 1$ であれば振動は減衰しますが、$|f'(x^*)| > 1$ になると振動が増幅し、平衡点は不安定化します。