高校生物では、動物の行動を走性・本能行動・学習に分類し、捕食者と被食者の関係を種間関係として学びます。
しかし、「なぜアオサギは小さな魚ばかり食べずに中くらいの魚を選ぶのか」「なぜミツバチは花が残っているのに別の花畑へ移動するのか」──こうした疑問に答える枠組みは高校にはありません。
大学の行動生態学では、自然選択がエネルギー収支を最大化する行動を進化させたという仮説に立ち、数理モデルで「最適な行動」を予測します。
そして予測を実際の行動と比較することで、動物の行動を「なぜそうするのか」というレベルで理解します。
この記事では、最適採餌理論の基本モデルから限界値の定理、理想自由分布までを一本の筋でつなぎ、モデルの成功例と限界の両方を正面から扱います。
高校生物では、動物の行動を大きく走性(光や化学物質への定位的な移動)、本能行動(生得的な行動パターン)、学習(経験による行動の変化)に分類します。ミツバチの8の字ダンスやアメフラシの慣れなど、具体的な例を通じて行動の多様性を学びます。
また、生態学の単元では種間関係として捕食(食う-食われるの関係)を学び、ニッチの分化や種間競争の概念に触れます。個体群動態では成長曲線や生存曲線を定量的に扱いますが、「個体がどのように行動を選択しているか」にまで踏み込むことはありません。
高校の枠組みでは、行動は「分類」の対象であり、「なぜその行動が進化したか」「その行動は他の選択肢と比べて合理的か」という問いは立てられません。しかし野外で動物を観察すると、あたかも計算ずくで行動しているように見える場面が多々あります。次のセクションで、大学の行動生態学がこの「合理性」をどのように定式化するかを見ていきましょう。
最適採餌理論(Optimal Foraging Theory, OFT)の根幹にある考え方はシンプルです。エネルギー獲得率が高い個体ほど生存・繁殖に有利であり、自然選択を通じて、採餌効率を高める行動が集団中に広まる。したがって、現在観察される動物の採餌行動は「エネルギー獲得率を最大化する行動」に近いはずだ、という予測が立てられます。
この予測を数理モデルで定式化し、実際のデータと突き合わせることで、「動物は本当に最適に行動しているか」を検証できます。一致すれば自然選択の力の証拠になり、一致しなければ「何が制約になっているか」を考える手がかりになります。
最適採餌理論に限らず、行動生態学の最適性モデルは次の3つの要素から構成されます。
この3つを明示することで、モデルは「もし自然選択がこの通貨を最大化するように行動を設計したなら、制約条件の下で動物はこう行動するはずだ」という定量的な予測を生み出します。ここからは具体的な3つのモデル ── 食物選択モデル、限界値の定理、理想自由分布 ── を順に見ていきましょう。
動物が環境中を移動しながら餌を探しているとします。環境中にはタイプ1(高エネルギーだが見つけにくい)とタイプ2(低エネルギーだが見つけやすい)の2種類の餌があるとしましょう。動物はタイプ2の餌に出会ったとき、これを食べるべきでしょうか、それとも無視してタイプ1を探し続けるべきでしょうか。
直感的には「おなかがすいていれば何でも食べるべき」と思うかもしれません。しかし、低エネルギーの餌を食べている間は高エネルギーの餌を探す時間を失います。このトレードオフを定量化するのが食物選択モデルです。
餌タイプ $i$ について、以下のパラメータを定義します。
ここでハンドリング時間とは、餌を見つけてから食べ終わるまでの時間のことです。この間、動物は他の餌を探索できません。各餌タイプの収益性(profitability)は $e_i / h_i$ で評価されます。これは「ハンドリング時間あたりに得られるエネルギー」であり、餌タイプ固有の効率を表します。
タイプ1の方が収益性が高い($e_1/h_1 > e_2/h_2$)と仮定しましょう。動物が両方の餌を食べる場合の単位時間あたりのエネルギー獲得率 $R$ は次のようになります。
$$R_{\text{both}} = \frac{\lambda_1 e_1 + \lambda_2 e_2}{1 + \lambda_1 h_1 + \lambda_2 h_2}$$
分子は単位探索時間あたりに得られる総エネルギー、分母は探索時間1単位あたりの「実質的な時間」(探索時間 + ハンドリング時間)です。$\lambda_i$ は探索中の遭遇率なので、$\lambda_i e_i$ は探索時間1単位あたりにタイプ $i$ から得られるエネルギーを表します。
一方、タイプ1だけを食べる(タイプ2を無視する)場合は次のようになります。
$$R_1 = \frac{\lambda_1 e_1}{1 + \lambda_1 h_1}$$
動物がタイプ2を食べるべきなのは、$R_{\text{both}} > R_1$ のときです。逆に $R_1 > R_{\text{both}}$ なら、タイプ2を無視した方がエネルギー獲得率は高くなります。この不等式を整理すると、驚くほどシンプルな条件が得られます。
タイプ2を食べるべき条件は $R_{\text{both}} > R_1$ です。
$$\frac{\lambda_1 e_1 + \lambda_2 e_2}{1 + \lambda_1 h_1 + \lambda_2 h_2} > \frac{\lambda_1 e_1}{1 + \lambda_1 h_1}$$
両辺の分母は正なので、クロス乗算すると、
$$(\lambda_1 e_1 + \lambda_2 e_2)(1 + \lambda_1 h_1) > \lambda_1 e_1(1 + \lambda_1 h_1 + \lambda_2 h_2)$$
左辺を展開すると、$\lambda_1 e_1 + \lambda_1^2 e_1 h_1 + \lambda_2 e_2 + \lambda_1 \lambda_2 e_2 h_1$。
右辺を展開すると、$\lambda_1 e_1 + \lambda_1^2 e_1 h_1 + \lambda_1 \lambda_2 e_1 h_2$。
共通項を消去すると、$\lambda_2 e_2 + \lambda_1 \lambda_2 e_2 h_1 > \lambda_1 \lambda_2 e_1 h_2$。
$\lambda_2 > 0$ で両辺を割ると、$e_2 + \lambda_1 e_2 h_1 > \lambda_1 e_1 h_2$。
整理すると、$e_2(1 + \lambda_1 h_1) > \lambda_1 e_1 h_2$、すなわち、
$$\frac{e_2}{h_2} > \frac{\lambda_1 e_1}{1 + \lambda_1 h_1} = R_1$$
収益性の低い餌タイプ2を食べるべき条件:
$$\frac{e_2}{h_2} > \frac{\lambda_1 e_1}{1 + \lambda_1 h_1}$$
左辺はタイプ2の収益性(固有の値)、右辺はタイプ1だけで採餌したときのエネルギー獲得率 $R_1$ です。つまり「タイプ2を食べる価値があるのは、タイプ2の収益性がタイプ1だけで得られる獲得率を上回るときだけ」です。
この判定条件からは、直感に反する重要な予測が2つ導かれます。
Elner & Hughes(1978)は、ショアクラブ(Carcinus maenas)のムール貝に対する餌選びを調べました。ムール貝にはさまざまなサイズがあり、大きい貝はエネルギー量 $e$ が大きい一方、殻を割るハンドリング時間 $h$ も長くなります。収益性 $e/h$ は中程度のサイズ(殻長15〜25 mm程度)で最大になります。
実験の結果、ショアクラブは収益性が最も高い中サイズの貝を選好し、非常に小さい貝や非常に大きい貝を避けることがわかりました。これは食物選択モデルの予測とよく一致しています。動物は単に「大きい餌」を好むのではなく、ハンドリング時間を含めた収益性で餌を評価しているのです。
誤:エネルギーを最大化するなら、常に最大の餌を選ぶはずだ
正:最適採餌理論で最大化するのはエネルギー量そのものではなく、単位時間あたりのエネルギー獲得率です。大きな餌はエネルギーが多くてもハンドリング時間が長いため、$e/h$ は必ずしも最大にはなりません。
食物選択モデルは「どの餌を食べるか」を予測しました。しかし自然環境では、餌は一様に分布しているとは限りません。餌が「パッチ」(群れ、花畑、落ち葉の下など)に集中して存在する場合、動物は「いつそのパッチを離れるか」という別の問題に直面します。次のセクションでは、この問題に答える限界値の定理を紹介します。
多くの環境では、餌はパッチ状に分布しています。花畑のミツバチ、果実の群がるサル、巣穴を訪れるタカ ── いずれの場合も、動物はあるパッチで採餌を始め、そのパッチの餌を減らしていきます。採餌を続けるほどパッチ内の餌が減るため、時間あたりの獲得エネルギーは逓減(しだいに減少)していきます。
一方、別のパッチへ移動すれば新鮮な餌場で再び高い獲得率を得られますが、移動には移動時間(travel time)$t_{\mathrm{T}}$ というコストがかかります。ここに「いつパッチを離れるべきか」というトレードオフが生じます。
1976年、Eric Charnovはこの問題に対する明快な解を示しました。パッチ $i$ で時間 $t$ だけ採餌したときの累積獲得エネルギーを $g_i(t)$ とします。$g_i(t)$ は上に凸な増加関数です(最初は速く、次第に遅くなる)。動物が全体のエネルギー獲得率を最大化するには、いつパッチを離れるべきでしょうか。
パッチ間の移動時間を $t_{\mathrm{T}}$、パッチ内での滞在時間を $t^*$ とすると、1回のパッチ訪問あたりの平均エネルギー獲得率は次のようになります。
$$R = \frac{g_i(t^*)}{t_{\mathrm{T}} + t^*}$$
これを最大化する $t^*$ を求めます。$R$ を $t^*$ で微分してゼロとおくと(商の微分を使います)、次の条件が得られます。
$R = g_i(t^*)/(t_{\mathrm{T}} + t^*)$ を $t^*$ で微分してゼロとおきます。
$$\frac{\mathrm{d}R}{\mathrm{d}t^*} = \frac{g_i'(t^*)(t_{\mathrm{T}} + t^*) - g_i(t^*)}{(t_{\mathrm{T}} + t^*)^2} = 0$$
分子がゼロなので、
$$g_i'(t^*)(t_{\mathrm{T}} + t^*) = g_i(t^*)$$
$$g_i'(t^*) = \frac{g_i(t^*)}{t_{\mathrm{T}} + t^*} = R^*$$
つまり、最適な離脱時点では、パッチ内での瞬間的な獲得率(限界獲得率)$g_i'(t^*)$ が、環境全体の平均獲得率 $R^*$ に等しくなります。
最適な滞在時間 $t^*$ は、パッチ内での瞬間的なエネルギー獲得率(限界獲得率)が環境全体の平均獲得率に等しくなる時点で決まる。
$$g_i'(t^*) = \frac{g_i(t^*)}{t_{\mathrm{T}} + t^*}$$
$g_i(t)$:パッチ $i$ で時間 $t$ 採餌したときの累積獲得エネルギー(上に凸な関数)。$g_i'(t)$:その時刻での瞬間的な獲得率($g_i$ の傾き)。$t_{\mathrm{T}}$:パッチ間の移動時間。
この定理にはエレガントな幾何学的解釈があります。横軸にパッチ内での滞在時間 $t$、縦軸に累積獲得エネルギー $g_i(t)$ をとったグラフを描きます。原点の左側に、移動時間 $t_{\mathrm{T}}$ 分だけ離れた点をとります(パッチへの移動開始時点)。この点から $g_i(t)$ の曲線へ接線を引くと、その接点が最適な離脱時点 $t^*$ を与えます。
接線の傾きは $g_i(t^*)/(t_{\mathrm{T}} + t^*)$ であり、これが最大化された平均獲得率 $R^*$ そのものです。接点より早く離れると $R$ は低く、遅く離れても $R$ は低くなります。
限界値の定理の意味を日常語で言い換えると、「パッチでの稼ぎがだんだん悪くなって、別のパッチへ行って一からやり直した方がマシだと思う瞬間が離脱のタイミング」ということです。そしてこの定理からは次の予測が導かれます。
Kacelnik(1984)は、ホシムクドリ(Sturnus vulgaris)の採餌行動を限界値の定理の予測と比較しました。ホシムクドリは巣から餌場へ飛んで幼虫を集め、くちばしに溜めて巣に持ち帰ります。餌場から巣への距離(移動時間に相当)を実験的に変えたところ、餌場が遠いほど、ホシムクドリはより多くの幼虫をくちばしに溜めてから帰巣したのです。
これは限界値の定理の予測(移動時間が長いほど滞在時間が長くなる)と見事に一致します。くちばしに幼虫が増えるにつれ、次の1匹を捕まえるのに時間がかかるようになるため($g(t)$ が上に凸)、まさに限界値の定理が適用できる状況なのです。
限界値の定理は、微積分の最適化問題としては基本的なものですが、そのグラフ的解釈の美しさで知られています。接線を引くだけで最適解が求まるため、動物の行動をグラフ上で直接予測できます。Charnov自身もこの幾何学的エレガンスを意識して論文を書いたと言われています。
ここまでで「どの餌を食べるか」と「いつパッチを離れるか」が予測できるようになりました。しかし、まだ一つ大きな問題が残っています。複数の動物が同じ環境で採餌するとき、彼らは「どこで」採餌するのが最適なのでしょうか。次のセクションでは、この問題に答える理想自由分布を扱います。
これまでのモデルは1個体の最適行動を扱っていました。しかし、現実には多くの個体が同じ環境で餌を争います。あるパッチに個体が集まると競争が激しくなり、1個体あたりの獲得率は低下します。このとき個体は環境中のパッチにどのように分布するでしょうか。
1970年、Fretwell & Lucasは理想自由分布(Ideal Free Distribution, IFD)というモデルを提唱しました。このモデルには2つの仮定があります。
この仮定の下で、各個体が自分のエネルギー獲得率を最大化するように行動すると、均衡状態ではすべてのパッチで1個体あたりの獲得率が等しくなるという結果が導かれます。
なぜなら、もしあるパッチの獲得率が他より高ければ、個体がそこに移動して競争が増し、獲得率が下がります。逆に獲得率が低いパッチからは個体が離れるため、残った個体の獲得率は上がります。この調整が均衡に達すると、すべてのパッチの獲得率が等しくなるのです。
パッチ $A$ の餌の入力率を $S_A$、パッチ $B$ の餌の入力率を $S_B$、総個体数を $N$ とする。各パッチの個体数を $N_A$, $N_B$($N_A + N_B = N$)とすると、均衡状態では、
$$\frac{S_A}{N_A} = \frac{S_B}{N_B}$$
すなわち、$N_A : N_B = S_A : S_B$ となる。
個体は餌の入力率に比例して各パッチに分布します。質の良いパッチにはより多くの個体が集まりますが、1個体あたりの獲得率はどのパッチでも同じになります。
Harper(1982)は、IFDの検証として、池のアヒルに対するシンプルかつ有名な実験を行いました。池の両端にパンを異なる速度で投げ入れ、アヒルの分布を観察したのです。
たとえば左端に2倍の速度でパンを投げると、アヒルはおおよそ2:1の比率で左端に多く集まりました。これはIFDの予測(個体数が餌の入力率に比例する)とよく一致しています。
ただし、完全な一致ではありませんでした。より強い個体が質の良い方に偏り、弱い個体は質の悪い方に追いやられる傾向がありました。これはIFDの「自由」の仮定 ── すべての個体が対等に競争できる ── が現実には成り立たないことを示しています。このような「不平等な競争力」を考慮した拡張モデルは不等理想自由分布(unequal IFD)と呼ばれます。
IFDは、実はゲーム理論におけるナッシュ均衡の一種です。すべてのパッチの獲得率が等しい状態では、どの個体も一方的に戦略(パッチ選択)を変えることで利得を改善できません。行動生態学と経済学のゲーム理論が同じ数学的構造を共有している好例です。B-2-2で学んだ進化ゲーム理論のESSとも深い関係があります。
ここまでで、最適採餌理論の3つの柱 ── 食物選択モデル、限界値の定理、理想自由分布 ── を見てきました。いずれも「エネルギー獲得率の最大化」という統一原理から、具体的な予測を導き、実験データで検証するという方法論を共有しています。しかし、動物は本当に常に「最適」に行動しているのでしょうか。次のセクションでは、最適性モデルの限界と批判に正面から向き合います。
最適採餌理論の価値は、予測が当たることだけにあるのではありません。予測が外れたとき、「なぜ動物は最適な行動をとらないのか」を考えることで、それまで見落としていた制約や選択圧を発見できるのです。最適性モデルは「答え」ではなく「問いを生み出すツール」なのです。
1979年、Gould & Lewontinは有名な論文「サン・マルコのスパンドレル」で、生物の形質をすべて適応(自然選択による最適化の産物)と見なす「適応主義プログラム」を批判しました。この批判は最適採餌理論にも向けられ、「動物の行動が最適でなければモデルの仮定を修正して一致させるだけでは、反証不可能な理論になってしまう」という指摘がなされました。
この批判には一理あります。しかし、最適性モデルの支持者はこう反論します:最適性モデルは「動物が最適に行動している」と主張するものではなく、「もし最適なら何が予測されるか」を示すベンチマークです。予測からのずれが検出されたとき、そのずれの原因(制約、トレードオフ、遺伝的・発生的制約など)を探ることで、行動の理解が深まります。
最適性モデルは「動物は完璧に最適な行動をとる」と主張する理論ではありません。むしろ、「もし最適ならこうなるはず」という基準(ヌルモデル)を作り、現実とのずれから何が行動を制約しているかを発見するための道具です。予測と一致すれば自然選択の力が確認でき、一致しなければ新しい制約やトレードオフの発見につながります。
最適採餌理論の視点で、高校生物の知識を振り返ってみましょう。高校では「ニッチの分化」を学びます。たとえば、同じ森林に棲む異なるキツツキの種が、幹の異なる部分(上部、中部、下部)で採餌するという例です。高校ではこれを「種間競争の結果、すみ分けが起こった」と説明しますが、最適採餌理論の視点からは「各種が他種との競争を考慮して、自分のエネルギー獲得率を最大化するパッチ(幹の領域)を選んだ結果、理想自由分布に近い状態に落ち着いた」と定量的に再解釈できるのです。
このように、最適採餌理論は高校で学ぶ生態学的パターンに「なぜそうなるのか」という機構的な説明を与えてくれます。
最適採餌理論は、進化理論、生態学、数理生物学の交差点に位置します。以下のトピックと密接に関連しています。
それでは最後に、本記事の要点をまとめましょう。
Q1. 食物選択モデルにおいて、収益性の低い餌を食べるかどうかを決める要因は何ですか。その餌の遭遇率は判定に影響しますか。
Q2. Charnovの限界値の定理によると、パッチ間の移動時間が長くなったとき、各パッチでの最適な滞在時間はどう変化しますか。その理由を説明してください。
Q3. 理想自由分布において、パッチAの餌の入力率がパッチBの3倍であるとき、均衡状態での個体数の比 $N_A : N_B$ はいくつになりますか。
Q4. 最適性モデルの予測と実際の動物の行動が一致しなかった場合、そのことは何を意味しますか。
ある環境に2種類の餌がある。タイプ1はエネルギー量 $e_1 = 20 \, \mathrm{J}$、ハンドリング時間 $h_1 = 2 \, \mathrm{s}$、遭遇率 $\lambda_1 = 0.5 \, \mathrm{s}^{-1}$。タイプ2はエネルギー量 $e_2 = 4 \, \mathrm{J}$、ハンドリング時間 $h_2 = 1 \, \mathrm{s}$、遭遇率 $\lambda_2 = 2.0 \, \mathrm{s}^{-1}$。
(a) 各タイプの収益性 $e_i/h_i$ を求めよ。
(b) タイプ1のみを食べる場合のエネルギー獲得率 $R_1$ を求めよ。
(c) この動物はタイプ2を食べるべきか。
(a) タイプ1の収益性:$e_1/h_1 = 20/2 = 10 \, \mathrm{J/s}$。タイプ2の収益性:$e_2/h_2 = 4/1 = 4 \, \mathrm{J/s}$。
(b) $R_1 = \lambda_1 e_1/(1 + \lambda_1 h_1) = 0.5 \times 20/(1 + 0.5 \times 2) = 10/2 = 5 \, \mathrm{J/s}$。
(c) $e_2/h_2 = 4 \, \mathrm{J/s} < R_1 = 5 \, \mathrm{J/s}$ なので、タイプ2は食べるべきではない(無視すべき)。
タイプ2は遭遇率が非常に高い($\lambda_2 = 2.0$)のですが、収益性 $e_2/h_2 = 4$ がタイプ1だけの獲得率 $R_1 = 5$ を下回るため、食べない方が効率的です。「たくさんある餌なら食べるべき」という直感に反する結果ですが、これが食物選択モデルの重要な予測です。
ある池に2つのパッチがあり、パッチAへの餌の入力率は $S_A = 30$ 個/分、パッチBへの入力率は $S_B = 10$ 個/分である。アヒルが20羽いるとき、IFDの予測する各パッチのアヒルの数を求めよ。
$N_A : N_B = S_A : S_B = 30 : 10 = 3 : 1$
$N_A + N_B = 20$ より、$N_A = 15$、$N_B = 5$。
IFDでは個体数が餌の入力率に比例します。パッチAにはBの3倍の餌が入るので、3倍のアヒルが集まります。このとき、1羽あたりの獲得率はパッチAで $30/15 = 2$ 個/分、パッチBで $10/5 = 2$ 個/分と等しくなり、どのアヒルもパッチを変える動機がなくなります。
食物選択モデルにおいて、タイプ1の遭遇率 $\lambda_1$ が低下すると、タイプ2を食べるべきかどうかの判定はどう変化するか。$R_1$ の式を用いて定量的に説明せよ。また、このことが生態学的にどのような状況を意味するか、具体例を交えて述べよ。
$R_1 = \lambda_1 e_1/(1 + \lambda_1 h_1)$ は $\lambda_1$ の単調増加関数です。$\lambda_1$ が低下すると $R_1$ も低下します。判定条件 $e_2/h_2 > R_1$ が満たされやすくなるため、タイプ2を食べるようになります。
生態学的には、好みの餌(タイプ1)が希少になると、動物は食性を広げて低収益の餌も利用するようになることを意味します。たとえば、冬季に昆虫が減少したシジュウカラが、通常は無視する種子類を食べるようになる現象がこれに該当します。逆に、好みの餌が豊富な夏季にはメニューを絞る(スペシャリストになる)のです。
この結果は「好みの餌が豊富なときほど選り好みし、乏しいときほど何でも食べる」という日常的な観察と一致します。食物選択モデルはこの直感を $R_1$ と $e_2/h_2$ の大小関係として定式化し、切り替えのタイミングを定量的に予測できるところに価値があります。
ある鳥が2つの餌場(パッチ)を利用している。パッチ内での累積獲得エネルギーは $g(t) = 10(1 - e^{-0.2t})$($t$ の単位は秒、$g$ の単位はJ)で表されるとする。パッチ間の移動時間が $t_{\mathrm{T}} = 5 \, \mathrm{s}$ のとき、Charnovの限界値の定理に基づいて、最適な滞在時間 $t^*$ を求める方程式を立てよ。(数値解を求める必要はない。)
$g(t) = 10(1 - e^{-0.2t})$ より、$g'(t) = 10 \times 0.2 \, e^{-0.2t} = 2e^{-0.2t}$。
限界値の定理の条件 $g'(t^*) = g(t^*)/(t_{\mathrm{T}} + t^*)$ に代入すると、
$$2e^{-0.2t^*} = \frac{10(1 - e^{-0.2t^*})}{5 + t^*}$$
これが $t^*$ を決める方程式である。
左辺は時刻 $t^*$ でのパッチ内の瞬間的な獲得率(限界獲得率)、右辺は移動時間を含めた全体の平均獲得率です。この超越方程式は解析的には解けませんが、数値的には容易に解を求められます。グラフ的には、点 $(-5, 0)$ から $g(t)$ の曲線に接線を引いた接点が答えです。$t_{\mathrm{T}}$ を10 sに変えると方程式の右辺の分母が大きくなり、$t^*$ が増大することも確認できます。
基本的な食物選択モデルでは、動物はエネルギー獲得率 $R$ のみを最大化すると仮定している。しかし、採餌中に捕食者に遭遇するリスクがあり、パッチ(開けた草原 vs 林縁)によって捕食リスクが異なるとする。
(a) エネルギー獲得率のみを通貨とした場合に、動物が開けた草原で採餌するのが最適であるにもかかわらず、実際には林縁で採餌する行動が観察されたとする。最適性モデルの枠組みの中で、この不一致をどのように解釈できるか説明せよ。
(b) 捕食リスクを考慮に入れた修正モデルでは、通貨をどのように変更すべきか。具体的な通貨の候補を1つ提案し、その通貨の下では林縁での採餌が最適になりうる理由を論じよ。
(c) このような修正モデルの検証として、捕食者の有無を操作する実験をデザインせよ。具体的にどのような予測が検証できるかを述べよ。
(a) 基本モデルの通貨(エネルギー獲得率の最大化のみ)がこの動物の行動を決める唯一の選択圧ではないことを示唆する。具体的には、モデルが考慮していない捕食リスクが制約条件として作用しており、動物はエネルギーと安全のトレードオフの中で行動を決定していると解釈できる。
(b) 通貨の候補として「単位死亡リスクあたりのエネルギー獲得率」$R/\mu$($\mu$ は単位時間あたりの捕食死亡率)が考えられる。開けた草原はエネルギー獲得率 $R$ が高いが捕食リスク $\mu$ も高い。林縁は $R$ が低いが $\mu$ はさらに低い。$R/\mu$ で評価すると林縁の方が大きくなりうるため、林縁での採餌が最適となる。
(c) 実験デザイン:同じ環境で捕食者を排除した区画(対照区)と捕食者が存在する区画(処理区)を設ける。予測:捕食者がいない対照区では、動物はエネルギー獲得率が最高の開けた草原で採餌するはずである。捕食者がいる処理区では、林縁に偏って採餌するはずである。もしこの予測が支持されれば、捕食リスクが採餌場所の選択に影響を与えていることが実証される。
この問題は最適性モデルの方法論そのものを問うています。重要なのは、不一致を「モデルの失敗」と片付けるのではなく、通貨や制約条件を修正して新たなモデルを構築し、さらにそれを実験で検証するという科学的プロセスです。Lima & Dill(1990)のレビューは、まさにこのアプローチで「餌と安全のトレードオフ」という研究分野を確立しました。