高校生物では、酵素反応の速度が基質濃度とともに増加し、やがて飽和に達することを定性的なグラフで学びます。
競争的阻害では「$K_{\mathrm{m}}$ が見かけ上大きくなる」、非競争的阻害では「$V_{\max}$ が小さくなる」と暗記した人も多いでしょう。
しかし、なぜそうなるのかを数式で説明できるでしょうか。
大学の酵素反応速度論では、たった一つの式 ── ミカエリス・メンテン式 ── から、飽和現象も阻害のパターンもすべて演繹的に導き出します。
この記事では、反応速度モデルの組み立てから式の導出、そして阻害剤の定量理論まで、一本の論理の糸でつないでいきます。
高校生物で学ぶ酵素の知識を整理しましょう。まず、酵素はタンパク質でできた生体触媒であり、活性部位に基質が結合して反応を促進します。基質特異性があり、鍵と鍵穴の関係でたとえられます。
高校の教科書には、横軸に基質濃度 $[\mathrm{S}]$、縦軸に反応速度 $v$ をとったグラフが載っています。基質濃度が低いときは $v$ はほぼ比例的に増加しますが、濃度を上げていくと増加が鈍り、やがて一定値に近づきます。この上限値が最大速度 $V_{\max}$ です。
この飽和現象の理由は「酵素の量が有限だから」と説明されます。すべての酵素分子が基質と結合してしまえば、それ以上反応速度は上がりません。
競争的阻害では、阻害剤が活性部位に結合して基質と「競争」します。基質濃度を十分に上げれば阻害を克服できるため、$V_{\max}$ は変わらず、グラフは右にシフトします。 非競争的阻害では、阻害剤が活性部位以外のアロステリック部位に結合し、酵素の構造を変化させます。基質濃度を上げても阻害は解消されないため、$V_{\max}$ が低下します。
高校ではここまでが限界です。「なぜ飽和曲線があの形になるのか」「競争的阻害でグラフが右にシフトするとは定量的にどういうことか」を説明する道具がありません。次のセクションで、大学の酵素速度論がこの問いにどう答えるかを見ていきましょう。
高校で暗記した「飽和」「阻害パターン」は、すべてミカエリス・メンテン式 $v = V_{\max}[\mathrm{S}]/(K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}])$ という一つの式から論理的に導かれます。この式を理解すれば、暗記は不要になり、未知の阻害パターンすら予測できるようになります。
さらに重要なのは、この式が定量的予測を可能にすることです。「阻害剤をこの濃度で加えると反応速度は何%低下するか」という問いに答えられるようになり、これが創薬の基盤となります。
では、この強力な式はどのように導かれるのでしょうか。まず、酵素反応を化学反応速度論のモデルとして組み立てるところから始めます。
酵素反応のグラフが飽和曲線を描くことは実験事実ですが、科学ではこれを「説明」し「予測」できるモデルが必要です。1913年、Leonor MichaelisとMaud Mentenは、酵素反応を次の2段階のモデルで表現しました。
酵素 $\mathrm{E}$ と基質 $\mathrm{S}$ がまず酵素-基質複合体 $\mathrm{ES}$ を形成し、次に $\mathrm{ES}$ が生成物 $\mathrm{P}$ と酵素 $\mathrm{E}$ に分解されます。
$$\mathrm{E} + \mathrm{S} \underset{k_{-1}}{\overset{k_1}{\rightleftharpoons}} \mathrm{ES} \overset{k_2}{\longrightarrow} \mathrm{E} + \mathrm{P}$$
ここで登場する3つの速度定数の意味を明確にしておきましょう。
化学反応速度論の基本原理(質量作用の法則)により、各ステップの速度は次のように書けます。
$\mathrm{ES}$ の生成速度は $k_1[\mathrm{E}][\mathrm{S}]$($\mathrm{E}$ と $\mathrm{S}$ の濃度の積に比例)です。
$\mathrm{ES}$ の分解速度は $k_{-1}[\mathrm{ES}]$($\mathrm{ES}$ の解離)と $k_2[\mathrm{ES}]$(触媒反応による消費)の和です。
したがって、$\mathrm{ES}$ 濃度の時間変化は次のように表されます。
$$\frac{\mathrm{d}[\mathrm{ES}]}{\mathrm{d}t} = k_1[\mathrm{E}][\mathrm{S}] - k_{-1}[\mathrm{ES}] - k_2[\mathrm{ES}]$$
また、観測される反応速度 $v$(生成物 $\mathrm{P}$ の生成速度)は次の通りです。
$$v = \frac{\mathrm{d}[\mathrm{P}]}{\mathrm{d}t} = k_2[\mathrm{ES}]$$
反応初期では生成物 $\mathrm{P}$ の濃度がほぼゼロであるため、$\mathrm{P}$ が $\mathrm{E}$ に再結合する逆反応は無視できます。実験でも「初速度」(反応開始直後の速度)を測定するのはこのためです。初速度測定は $[\mathrm{P}] \approx 0$ の条件を保証します。
モデルは組み上がりました。しかし、この微分方程式を解くには $[\mathrm{E}]$ と $[\mathrm{ES}]$ が未知数として2つあり、このままでは解けません。次のセクションで、巧妙な近似を導入してこの問題を解決します。
1925年、BriggsとHaldaneは定常状態近似(steady-state approximation)という考え方を導入しました。反応が開始してごく短時間が経過すると、$\mathrm{ES}$ の生成速度と分解速度が釣り合い、$[\mathrm{ES}]$ がほぼ一定に保たれるという仮定です。
$$\frac{\mathrm{d}[\mathrm{ES}]}{\mathrm{d}t} = 0$$
これは「$[\mathrm{ES}]$ がゼロ」という意味ではありません。「$[\mathrm{ES}]$ の変化率がゼロ」、つまり生成と分解が釣り合った動的平衡状態です。
Step 1:定常状態の条件を書き下す。
$$k_1[\mathrm{E}][\mathrm{S}] = (k_{-1} + k_2)[\mathrm{ES}]$$
Step 2:$[\mathrm{E}]$ を消去する。酵素の総濃度 $[\mathrm{E}]_0$ は、遊離酵素と複合体の和として保存されます。
$$[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] \quad \Longrightarrow \quad [\mathrm{E}] = [\mathrm{E}]_0 - [\mathrm{ES}]$$
Step 3:Step 1 に代入して $[\mathrm{ES}]$ について解く。
$$k_1([\mathrm{E}]_0 - [\mathrm{ES}])[\mathrm{S}] = (k_{-1} + k_2)[\mathrm{ES}]$$
$$k_1[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}] - k_1[\mathrm{ES}][\mathrm{S}] = (k_{-1} + k_2)[\mathrm{ES}]$$
$$k_1[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}] = (k_{-1} + k_2 + k_1[\mathrm{S}])[\mathrm{ES}]$$
$$[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}]}{\dfrac{k_{-1} + k_2}{k_1} + [\mathrm{S}]}$$
Step 4:ミカエリス定数 $K_{\mathrm{m}}$ を定義する。
$$K_{\mathrm{m}} = \frac{k_{-1} + k_2}{k_1}$$
Step 5:反応速度 $v = k_2[\mathrm{ES}]$ に代入する。
$$v = \frac{k_2[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}]}{K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}]}$$
$[\mathrm{S}] \to \infty$ のとき $v \to k_2[\mathrm{E}]_0$ であり、これが最大速度 $V_{\max} = k_2[\mathrm{E}]_0$ です。
$$v = \frac{V_{\max}[\mathrm{S}]}{K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}]}$$
$V_{\max} = k_2[\mathrm{E}]_0$(最大反応速度)、$K_{\mathrm{m}} = (k_{-1} + k_2)/k_1$(ミカエリス定数)。$[\mathrm{S}]$ は基質濃度、$v$ は初速度です。
$K_{\mathrm{m}}$ は酵素反応速度論で最も重要なパラメータの一つです。その意味を3つの角度から理解しましょう。
$V_{\max} = k_2[\mathrm{E}]_0$ は酵素がすべて $\mathrm{ES}$ 複合体になったときの速度です。$k_2$(しばしば $k_{\mathrm{cat}}$ と書かれる)はターンオーバー数と呼ばれ、酵素1分子が1秒あたりに変換できる基質分子の最大数を意味します。
たとえば、炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)の $k_{\mathrm{cat}}$ は約 $10^6 \, \mathrm{s}^{-1}$ であり、1秒間に100万分子の $\mathrm{CO}_2$ を $\mathrm{HCO}_3^{-}$ に変換できます。
誤:$K_{\mathrm{m}}$ は酵素と基質の解離定数である
正:$K_{\mathrm{m}} = (k_{-1} + k_2)/k_1$ であり、$k_2 = 0$ のとき(触媒反応がないとき)のみ解離定数 $K_{\mathrm{d}} = k_{-1}/k_1$ に一致する。$k_2$ が無視できない場合、$K_{\mathrm{m}} > K_{\mathrm{d}}$ となる。
この式の2つの極限を確認しましょう。
高校で学んだ「低濃度で比例、高濃度で飽和」というグラフの形が、たった一つの式から自然に導かれました。次のセクションでは、この式を実験データから検証する方法と、阻害の定量理論に進みます。
ミカエリス・メンテン式の飽和曲線から $K_{\mathrm{m}}$ と $V_{\max}$ を正確に読み取ることは困難です。曲線が $V_{\max}$ に漸近する形なので、$V_{\max}$ の正確な値が不明であり、そこから逆算する $K_{\mathrm{m}}$ も不正確になります。
1934年、LineweaverとBurkはミカエリス・メンテン式の両辺の逆数をとる方法を提案しました。
$$\frac{1}{v} = \frac{K_{\mathrm{m}}}{V_{\max}} \cdot \frac{1}{[\mathrm{S}]} + \frac{1}{V_{\max}}$$
横軸に $1/[\mathrm{S}]$、縦軸に $1/v$ をとると直線になります。傾きは $K_{\mathrm{m}}/V_{\max}$、$y$ 切片は $1/V_{\max}$、$x$ 切片は $-1/K_{\mathrm{m}}$ です。
直線の傾きと切片から $K_{\mathrm{m}}$ と $V_{\max}$ を決定できます。これが酵素反応速度論における標準的なデータ解析法です。
高校では「阻害剤が活性部位に結合して基質と競争する」と学びました。これを定量化します。
阻害剤 $\mathrm{I}$ が酵素 $\mathrm{E}$ の活性部位に結合して $\mathrm{EI}$ 複合体を形成するとします。この結合の解離定数が阻害定数 $K_{\mathrm{i}}$ です。
$$\mathrm{E} + \mathrm{I} \rightleftharpoons \mathrm{EI}, \quad K_{\mathrm{i}} = \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{EI}]}$$
阻害剤が存在すると、遊離酵素の一部が $\mathrm{EI}$ として奪われます。酵素の保存式は次のようになります。
$$[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{EI}]$$
定常状態近似と保存式を連立して解くと、競争的阻害下でのミカエリス・メンテン式が得られます。
$$v = \frac{V_{\max}[\mathrm{S}]}{\alpha K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}]}, \quad \alpha = 1 + \frac{[\mathrm{I}]}{K_{\mathrm{i}}}$$
見かけのミカエリス定数は $K_{\mathrm{m}}^{\mathrm{app}} = \alpha K_{\mathrm{m}}$ となり、$\alpha > 1$ なので $K_{\mathrm{m}}$ が見かけ上大きくなります。$V_{\max}$ は変化しません。$[\mathrm{S}] \to \infty$ のとき $v \to V_{\max}$ だからです。
Lineweaver-Burkプロットでは、競争的阻害は傾きが変化し、$y$ 切片($1/V_{\max}$)は不変という特徴を示します。複数の直線が $y$ 軸上の同じ点で交わります。
非競争的阻害剤は、遊離酵素 $\mathrm{E}$ にも酵素-基質複合体 $\mathrm{ES}$ にも結合できます。
$$\mathrm{E} + \mathrm{I} \rightleftharpoons \mathrm{EI}, \quad \mathrm{ES} + \mathrm{I} \rightleftharpoons \mathrm{ESI}$$
純粋な非競争的阻害では、$\mathrm{E}$ への結合と $\mathrm{ES}$ への結合の解離定数が等しい(どちらも $K_{\mathrm{i}}$)と仮定します。$\mathrm{ESI}$ は触媒活性を持ちません。
$$v = \frac{V_{\max}[\mathrm{S}]}{\alpha'(K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}])}, \quad \alpha' = 1 + \frac{[\mathrm{I}]}{K_{\mathrm{i}}}$$
見かけの $V_{\max}$ は $V_{\max}^{\mathrm{app}} = V_{\max}/\alpha'$ となり低下します。$K_{\mathrm{m}}$ は変化しません。Lineweaver-Burkプロットでは $x$ 切片($-1/K_{\mathrm{m}}$)が不変で、傾きと $y$ 切片がともに増大します。
実際の阻害剤の多くは、$\mathrm{E}$ と $\mathrm{ES}$ に対する親和性が異なります($K_{\mathrm{i}} \neq K_{\mathrm{i}}'$)。この場合を混合型阻害と呼び、$K_{\mathrm{m}}$ と $V_{\max}$ の両方が変化します。競争的阻害と非競争的阻害は、混合型阻害の特殊なケースとして統一的に理解できます。
| 阻害の種類 | $K_{\mathrm{m}}^{\mathrm{app}}$ | $V_{\max}^{\mathrm{app}}$ | Lineweaver-Burk の特徴 |
|---|---|---|---|
| 競争的 | $\alpha K_{\mathrm{m}}$(増大) | $V_{\max}$(不変) | $y$ 切片が同じ |
| 非競争的 | $K_{\mathrm{m}}$(不変) | $V_{\max}/\alpha'$(低下) | $x$ 切片が同じ |
| 混合型 | $\alpha K_{\mathrm{m}}/\alpha'$(変化) | $V_{\max}/\alpha'$(低下) | 第2または第3象限で交差 |
| 不競争的 | $K_{\mathrm{m}}/\alpha'$(低下) | $V_{\max}/\alpha'$(低下) | 平行線 |
不競争的阻害剤は $\mathrm{ES}$ 複合体にのみ結合し、遊離酵素 $\mathrm{E}$ には結合しません。$K_{\mathrm{m}}$ と $V_{\max}$ が同じ割合で低下するため、Lineweaver-Burkプロットでは平行な直線が現れます。高校では扱いませんが、多基質反応でよく見られるパターンです。
以上の定量理論により、実験で得られたLineweaver-Burkプロットのパターンから阻害様式を判定し、$K_{\mathrm{i}}$ を求めることができます。次のセクションでは、この理論が実際の創薬にどう応用されるかを見ていきましょう。
多くの医薬品は酵素阻害剤です。高血圧治療薬のACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)、インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(ノイラミニダーゼ阻害剤)、HIV治療薬のプロテアーゼ阻害剤など、酵素反応速度論の理解なしには開発できなかった薬が数多くあります。
創薬の現場では、阻害剤の効力を$\mathrm{IC}_{50}$(50%阻害濃度)で評価します。$\mathrm{IC}_{50}$ は酵素活性を50%低下させるのに必要な阻害剤濃度です。
競争的阻害の場合、$\mathrm{IC}_{50}$ は基質濃度に依存します。Cheng-Prusoff式により次の関係が成り立ちます。
$$\mathrm{IC}_{50} = K_{\mathrm{i}}\left(1 + \frac{[\mathrm{S}]}{K_{\mathrm{m}}}\right)$$
この式は、$[\mathrm{S}] = K_{\mathrm{m}}$ のとき $\mathrm{IC}_{50} = 2K_{\mathrm{i}}$ となることを示します。つまり、$\mathrm{IC}_{50}$ だけを見ていると、実験条件(基質濃度)によって値が変わってしまいます。阻害剤の本質的な強さを比較するには $K_{\mathrm{i}}$ を求める必要があるのです。
酵素の触媒効率は $k_{\mathrm{cat}}/K_{\mathrm{m}}$ で評価されます。この値は二次速度定数の次元($\mathrm{M}^{-1}\mathrm{s}^{-1}$)を持ち、基質濃度が $K_{\mathrm{m}}$ よりはるかに低いときの効率を反映します。
$k_{\mathrm{cat}}/K_{\mathrm{m}}$ の理論上の上限は、酵素と基質の拡散衝突速度(約 $10^8$--$10^9 \, \mathrm{M}^{-1}\mathrm{s}^{-1}$)です。この上限に近い酵素は「拡散律速酵素」(diffusion-limited enzyme)と呼ばれ、「触媒的に完璧」とされます。トリオースリン酸イソメラーゼやアセチルコリンエステラーゼがその例です。
$k_{\mathrm{cat}}/K_{\mathrm{m}}$ は $k_1 \cdot k_2/(k_{-1} + k_2)$ と書き直せます。$k_2 \gg k_{-1}$ の極限では $k_{\mathrm{cat}}/K_{\mathrm{m}} \to k_1$ となりますが、$k_1$ は分子同士が溶液中で出会う頻度(拡散速度)に制限されます。したがって、酵素がどれだけ速く触媒しようとも、基質との出会いの頻度を超えることはできません。
酵素反応の数理は、生化学の基礎であると同時に、創薬・代謝工学・合成生物学の定量的基盤でもあります。次のセクションでは、本記事の内容が教科書の他のトピックとどのようにつながるかを整理します。
酵素反応速度論は、タンパク質科学と熱力学の結節点に位置します。以下のトピックと密接に関連しています。
それでは最後に、本記事の要点をまとめましょう。
Q1. 定常状態近似とは何を仮定することですか。$[\mathrm{ES}] = 0$ とは何が違いますか。
Q2. $K_{\mathrm{m}} = 5 \, \mathrm{mM}$ の酵素に基質を $10 \, \mathrm{mM}$ 加えたとき、反応速度は $V_{\max}$ の何分の何になりますか。
Q3. 競争的阻害剤を加えたとき、Lineweaver-Burkプロットではどの切片が変わらず、どの切片が変化しますか。その理由を式で説明してください。
Q4. $\mathrm{IC}_{50}$ が実験条件によって変わり得るのに対して、$K_{\mathrm{i}}$ は条件に依存しない固有の値です。競争的阻害の場合、両者の関係を表す式を書いてください。
ある酵素の $K_{\mathrm{m}} = 2.0 \, \mathrm{mM}$、$V_{\max} = 100 \, \mu\mathrm{mol/min}$ である。基質濃度 $[\mathrm{S}] = 8.0 \, \mathrm{mM}$ のときの反応速度 $v$ を求めよ。
$$v = \frac{100 \times 8.0}{2.0 + 8.0} = \frac{800}{10} = 80 \, \mu\mathrm{mol/min}$$
ミカエリス・メンテン式に代入するだけの基本問題です。$[\mathrm{S}]/K_{\mathrm{m}} = 4$ なので、酵素はかなり飽和に近い状態で反応しています($V_{\max}$ の 80%)。
ある酵素のLineweaver-Burkプロットにおいて、$y$ 切片が $0.02 \, (\mu\mathrm{mol/min})^{-1}$、$x$ 切片が $-0.5 \, \mathrm{mM}^{-1}$ であった。この酵素の $V_{\max}$ と $K_{\mathrm{m}}$ を求めよ。
$y$ 切片 $= 1/V_{\max}$ より、$V_{\max} = 1/0.02 = 50 \, \mu\mathrm{mol/min}$。
$x$ 切片 $= -1/K_{\mathrm{m}}$ より、$K_{\mathrm{m}} = 1/0.5 = 2.0 \, \mathrm{mM}$。
Lineweaver-Burkプロットの切片の意味を正確に覚えておくことが大切です。$y$ 切片から $V_{\max}$ を、$x$ 切片から $K_{\mathrm{m}}$ を直接求められます。
ある酵素($K_{\mathrm{m}} = 4.0 \, \mathrm{mM}$, $V_{\max} = 200 \, \mu\mathrm{mol/min}$)に阻害剤 $\mathrm{I}$($K_{\mathrm{i}} = 2.0 \, \mathrm{mM}$)を $[\mathrm{I}] = 6.0 \, \mathrm{mM}$ の濃度で加えた。阻害が競争的であるとき、基質濃度 $[\mathrm{S}] = 4.0 \, \mathrm{mM}$ での反応速度を求めよ。阻害剤がない場合の速度と比較せよ。
まず $\alpha = 1 + [\mathrm{I}]/K_{\mathrm{i}} = 1 + 6.0/2.0 = 4.0$。
阻害あり:$v = 200 \times 4.0/(4.0 \times 4.0 + 4.0) = 800/20 = 40 \, \mu\mathrm{mol/min}$。
阻害なし:$v = 200 \times 4.0/(4.0 + 4.0) = 800/8 = 100 \, \mu\mathrm{mol/min}$。
阻害剤により反応速度は $100$ から $40 \, \mu\mathrm{mol/min}$ へ、60%低下した。
$\alpha = 4$ は、見かけの $K_{\mathrm{m}}$ が $4 \times 4 = 16 \, \mathrm{mM}$ に増大していることを意味します。$[\mathrm{S}] = 4.0 \, \mathrm{mM}$ はこの見かけの $K_{\mathrm{m}}$ よりかなり低いため、酵素は十分に飽和しておらず、速度が大幅に低下しています。基質濃度を上げれば阻害を克服できるのが競争的阻害の特徴です。
ミカエリス・メンテン式から、基質濃度が $K_{\mathrm{m}}$ の $n$ 倍($[\mathrm{S}] = nK_{\mathrm{m}}$)のとき、$v = nV_{\max}/(n + 1)$ となることを示せ。また、$v = 0.9V_{\max}$ を達成するために必要な $[\mathrm{S}]$ は $K_{\mathrm{m}}$ の何倍か。
$[\mathrm{S}] = nK_{\mathrm{m}}$ を代入すると、
$$v = \frac{V_{\max} \cdot nK_{\mathrm{m}}}{K_{\mathrm{m}} + nK_{\mathrm{m}}} = \frac{nV_{\max}}{1 + n}$$
$v = 0.9V_{\max}$ とすると、$0.9 = n/(n + 1)$、$0.9n + 0.9 = n$、$0.1n = 0.9$、$n = 9$。
つまり $[\mathrm{S}] = 9K_{\mathrm{m}}$ が必要です。
$V_{\max}$ の 90% に達するには基質濃度を $K_{\mathrm{m}}$ の 9 倍にしなければならず、50% から 90% に上げるには基質を 9 倍も投入する必要があります。これが飽和曲線の「寝てくる」部分の定量的な意味です。
非競争的阻害のミカエリス・メンテン式 $v = V_{\max}[\mathrm{S}]/(\alpha'(K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}]))$ を、以下の手順で導出せよ。
(a) 非競争的阻害では $\mathrm{E} + \mathrm{I} \rightleftharpoons \mathrm{EI}$ と $\mathrm{ES} + \mathrm{I} \rightleftharpoons \mathrm{ESI}$ の両方が起こり、どちらの解離定数も $K_{\mathrm{i}}$ であるとする。$\mathrm{ESI}$ は触媒活性を持たない。酵素の保存式 $[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{EI}] + [\mathrm{ESI}]$ を書き下せ。
(b) $[\mathrm{EI}] = [\mathrm{E}][\mathrm{I}]/K_{\mathrm{i}}$ および $[\mathrm{ESI}] = [\mathrm{ES}][\mathrm{I}]/K_{\mathrm{i}}$ を用いて、$[\mathrm{EI}]$ と $[\mathrm{ESI}]$ を消去し、$[\mathrm{ES}]$ を $[\mathrm{E}]_0$, $[\mathrm{S}]$, $K_{\mathrm{m}}$, $\alpha'$ で表せ。
(c) $v = k_2[\mathrm{ES}]$ から最終的な速度式を導け。
(a) $[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{EI}] + [\mathrm{ESI}]$
(b) 定常状態近似より $[\mathrm{E}] = K_{\mathrm{m}}[\mathrm{ES}]/[\mathrm{S}]$(阻害なしの場合と同じ関係)。代入すると、
$$[\mathrm{EI}] = \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{I}]}{K_{\mathrm{i}}} = \frac{K_{\mathrm{m}}[\mathrm{ES}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{S}]K_{\mathrm{i}}}$$
$$[\mathrm{ESI}] = \frac{[\mathrm{ES}][\mathrm{I}]}{K_{\mathrm{i}}}$$
保存式に代入すると、
$$[\mathrm{E}]_0 = \frac{K_{\mathrm{m}}[\mathrm{ES}]}{[\mathrm{S}]} + [\mathrm{ES}] + \frac{K_{\mathrm{m}}[\mathrm{ES}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{S}]K_{\mathrm{i}}} + \frac{[\mathrm{ES}][\mathrm{I}]}{K_{\mathrm{i}}}$$
$\alpha' = 1 + [\mathrm{I}]/K_{\mathrm{i}}$ とおくと、
$$[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{ES}]\left(\frac{\alpha' K_{\mathrm{m}}}{[\mathrm{S}]} + \alpha'\right) = \frac{\alpha'[\mathrm{ES}](K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}])}{[\mathrm{S}]}$$
$$[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}]}{\alpha'(K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}])}$$
(c) $v = k_2[\mathrm{ES}] = k_2[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}]/(\alpha'(K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}])) = V_{\max}[\mathrm{S}]/(\alpha'(K_{\mathrm{m}} + [\mathrm{S}]))$。
非競争的阻害では $\alpha'$ が $K_{\mathrm{m}}$ と $[\mathrm{S}]$ の両方にかかるため、分母全体が $\alpha'$ 倍になります。その結果、$V_{\max}^{\mathrm{app}} = V_{\max}/\alpha'$ と低下する一方、$K_{\mathrm{m}}^{\mathrm{app}} = K_{\mathrm{m}}$ は不変です。導出の鍵は、$\mathrm{EI}$ と $\mathrm{ESI}$ の解離定数が等しいという仮定により、$\alpha'$ が共通因子として括り出せることです。