高校生物では、同じ資源を利用する2つの種が競争すると、やがて一方が他方を排除する「競争排除則」を学びました。
しかし、自然界には明らかに似た種が共存している例がいくらでもあります。
同じ森に何十種もの樹木が共存し、同じ湖に多数の魚種が暮らしています。
共存と排除を分ける条件は一体何なのでしょうか。
この問いに数学的に答えるのが、ロトカ・ヴォルテラの競争モデルです。
B-14-1 で導入したロジスティック方程式に「もう1種の影響」を表す項を追加するだけで、競争の帰結を4つのパターンに分類し、共存が成り立つ正確な数学的条件を導くことができます。
その条件の本質は驚くほどシンプルです。「種内競争が種間競争より強ければ共存できる」── この一文に集約されます。
本記事では、競争方程式の構築から等傾線解析、4つの帰結の導出、そしてガウゼの実験的検証からチルマンの $R^*$ 理論まで、種間競争の数理を一本の筋でたどります。
高校生物では、生物群集における種間競争を学びました。 同じ資源(食物、空間、光など)を利用する2つの種が共存すると、資源をめぐる競争が起こります。 教科書では、ゾウリムシの実験が典型例として紹介されました。 ヒメゾウリムシ(Paramecium aurelia)とゾウリムシ(P. caudatum)を別々に培養するとどちらもよく増殖しますが、混合培養するとヒメゾウリムシが生き残り、ゾウリムシは消滅します。
この結果は競争排除則(ガウゼの法則)としてまとめられます。 「完全に同じニッチを占める2種は、長期的には共存できない。一方が他方を排除する」というものです。
ニッチ(生態的地位)とは、ある種が生態系の中で占める「役割」や「位置」のことです。 食物の種類、活動する時間帯、利用する空間、温度や湿度の許容範囲など、多次元的に定義されます。 高校では、ニッチが重なるほど競争が激しくなり、ニッチ分化(すみ分け)が進むことで共存が可能になると学びました。
しかし、「ニッチがどれだけ違えば共存できるのか」「排除か共存かを決める定量的な条件は何か」については、高校では扱われませんでした。 次のセクションでは、大学レベルでこの問いにどのように数学的に答えるかを見ていきます。
ロトカ・ヴォルテラの競争モデルは、2種の競争の帰結を4パターンに分類します。そのうち安定共存が実現するのは、どちらの種にとっても、同種個体による競争の影響が他種個体による影響より大きい場合に限られます。
数学的には $\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ で表されます。これは「どちらの種も、他種を排除するほど強い種間競争を及ぼさない」ことを意味します。
直感的には、2種がそれぞれ異なる資源を主に利用し(ニッチが部分的に分化し)、自分と同種の個体のほうが競争相手として「手強い」状況です。これがニッチ分化による共存の数学的な正体です。
では、この結論がどのように導かれるのかを、方程式の構築から一歩ずつたどりましょう。 出発点は、B-14-1 で学んだロジスティック方程式です。
B-14-1 で学んだロジスティック方程式は、1種だけの個体群動態を記述するものでした。
$$\frac{dN_1}{dt} = r_1 N_1 \left(1 - \frac{N_1}{K_1}\right)$$
ここで $N_1$ は種1の個体数、$r_1$ は内的自然増加率、$K_1$ は種1だけが存在するときの環境収容力です。 因子 $(1 - N_1/K_1)$ は、種1の個体同士の競争(種内競争)によって増加率が低下することを表しています。
いま、同じ資源を利用する種2が存在するとしましょう。 種2の個体も種1の資源を消費するので、種1にとっての「使える資源の残り」はさらに減少します。 この効果を数式に組み込むために、競争係数 $\alpha_{12}$ を導入します。
$\alpha_{12}$ は「種2の個体1匹が種1に与える競争的影響を、種1の個体1匹が種1に与える影響を1として、何倍に相当するか」を表す係数です。 たとえば $\alpha_{12} = 0.5$ なら、種2の個体1匹は種1の個体0.5匹分の競争圧を種1に及ぼすことを意味します。
この係数を使うと、種1にとっての「実効的な競争個体数」は $N_1 + \alpha_{12} N_2$ と書けます。 種1の環境収容力 $K_1$ に対する余裕は、
$$1 - \frac{N_1 + \alpha_{12} N_2}{K_1}$$
となります。同様に、種2にとっての実効的な競争個体数は $N_2 + \alpha_{21} N_1$ です。 $\alpha_{21}$ は「種1の個体が種2に与える影響」を、種2の同種個体の影響を1として測ったものです。
$$\frac{dN_1}{dt} = r_1 N_1 \left(\frac{K_1 - N_1 - \alpha_{12} N_2}{K_1}\right)$$
$$\frac{dN_2}{dt} = r_2 N_2 \left(\frac{K_2 - N_2 - \alpha_{21} N_1}{K_2}\right)$$
$N_1, N_2$:種1、種2の個体数。$r_1, r_2$:各種の内的自然増加率。$K_1, K_2$:各種が単独で存在するときの環境収容力。 $\alpha_{12}$:種2が種1に及ぼす競争係数(種2の個体1匹の影響を種1の個体何匹分で表したもの)。 $\alpha_{21}$:種1が種2に及ぼす競争係数。
競争係数 $\alpha$ の値の範囲と生物学的意味を整理しておきましょう。
| $\alpha_{12}$ の値 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| $\alpha_{12} = 0$ | 種2は種1に競争的影響を与えない(ニッチが完全に分離) | 全く異なる餌を食べる2種 |
| $0 < \alpha_{12} < 1$ | 種2の個体は種1の同種個体より弱い競争圧を及ぼす | 部分的にニッチが重なるが食い分けがある |
| $\alpha_{12} = 1$ | 種2の個体は種1の同種個体と全く同じ競争圧を及ぼす | ニッチが完全に一致 |
| $\alpha_{12} > 1$ | 種2の個体は種1の同種個体より強い競争圧を及ぼす | 種2が種1の主要な餌を大量消費する |
よくある誤解:$\alpha_{12} = \alpha_{21}$ だと考えてしまうこと。実際には2つの競争係数は独立です。種1が種2に強い影響を与えても、その逆は弱いことは十分ありえます。
正しい理解:$\alpha_{12}$ と $\alpha_{21}$ はそれぞれ独立に決まり、両者の関係が競争の帰結を左右します。4つのパターンの違いはまさに $\alpha_{12}$ と $\alpha_{21}$ の大小関係から生じます。
競争方程式が構築できたところで、次はこの連立微分方程式の平衡点と安定性を調べます。 ここで力を発揮するのが等傾線解析という幾何学的な方法です。
2種の個体数 $N_1$ と $N_2$ をそれぞれ横軸・縦軸にとった平面(状態空間、phase plane)を考えます。 この平面上の各点は、ある時刻における2種の個体数の組 $(N_1, N_2)$ を表します。
等傾線(isocline、ゼロ成長等傾線)とは、「ある種の個体数が変化しない」($dN/dt = 0$)条件を満たす $(N_1, N_2)$ の集合です。 等傾線の上では個体数が増えも減りもしないので、等傾線は状態空間を「増加する領域」と「減少する領域」に分割する境界線の役割を果たします。
種1について $dN_1/dt = 0$ とおきます。$r_1 N_1 \neq 0$ のとき、括弧内がゼロになる条件は、
$$K_1 - N_1 - \alpha_{12} N_2 = 0$$
すなわち、
$$N_2 = \frac{K_1 - N_1}{\alpha_{12}}$$
これは状態空間上の直線です。$N_1$ 軸との交点は $(K_1, 0)$、$N_2$ 軸との交点は $(0, K_1/\alpha_{12})$ です。
同様に、$dN_2/dt = 0$ の条件は、
$$K_2 - N_2 - \alpha_{21} N_1 = 0$$
$$N_2 = K_2 - \alpha_{21} N_1$$
$N_1$ 軸との交点は $(K_2/\alpha_{21}, 0)$、$N_2$ 軸との交点は $(0, K_2)$ です。
2本の等傾線が状態空間上でどのように交わるかによって、競争の帰結が4つのパターンに分類されます。 交わり方を決めるのは、各等傾線の端点の位置関係、すなわち $K_1$ と $K_2/\alpha_{21}$、$K_2$ と $K_1/\alpha_{12}$ の大小関係です。
種1の等傾線の $N_1$ 切片は $K_1$、種2の等傾線の $N_1$ 切片は $K_2/\alpha_{21}$ です。
種1の等傾線の $N_2$ 切片は $K_1/\alpha_{12}$、種2の等傾線の $N_2$ 切片は $K_2$ です。
2本の直線が第一象限($N_1 > 0, N_2 > 0$)で交わるかどうか、交わる場合にその交点が安定かどうかは、以下の4つの不等式の組み合わせで決まります。
$N_1$ 軸上の比較: $K_1$ vs $K_2/\alpha_{21}$
$N_2$ 軸上の比較: $K_2$ vs $K_1/\alpha_{12}$
これらの比較を $\alpha$ を使って書き直すと、
$K_1 > K_2/\alpha_{21}$ は $\alpha_{21} > K_2/K_1$ と同値
$K_2 > K_1/\alpha_{12}$ は $\alpha_{12} > K_1/K_2$ と同値
4つのパターンを整理します。
| パターン | 条件 | 帰結 |
|---|---|---|
| 種1が勝利 | $K_1 > K_2/\alpha_{21}$ かつ $K_1/\alpha_{12} > K_2$ ($\alpha_{21} > K_2/K_1$ かつ $\alpha_{12} < K_1/K_2$) | 種2が排除され、$N_1 \to K_1$ |
| 種2が勝利 | $K_1 < K_2/\alpha_{21}$ かつ $K_1/\alpha_{12} < K_2$ ($\alpha_{21} < K_2/K_1$ かつ $\alpha_{12} > K_1/K_2$) | 種1が排除され、$N_2 \to K_2$ |
| 不安定共存 (初期値依存) | $K_1 > K_2/\alpha_{21}$ かつ $K_1/\alpha_{12} < K_2$ ($\alpha_{21} > K_2/K_1$ かつ $\alpha_{12} > K_1/K_2$) | 初期個体数が多いほうが勝つ。共存の平衡点は存在するが不安定 |
| 安定共存 | $K_1 < K_2/\alpha_{21}$ かつ $K_1/\alpha_{12} > K_2$ ($\alpha_{21} < K_2/K_1$ かつ $\alpha_{12} < K_1/K_2$) | どの初期値からでも共存の平衡点に収束 |
種1勝利の場合: 種1の等傾線が種2の等傾線の「外側」にあります。 状態空間のどの点から出発しても、種1の個体数は増加(または維持)し、種2の個体数は減少していきます。 最終的に種2は絶滅し、種1は環境収容力 $K_1$ に到達します。
安定共存の場合: 2本の等傾線が第一象限で交わり、その交点が安定な平衡点になります。 交点の「内側」(原点に近い側)では両種とも増加し、「外側」では両種とも減少するため、どの方向からも交点に向かう力が働きます。
不安定共存(初期値依存)の場合: 2本の等傾線は交わりますが、交点は不安定です。交点からわずかにずれると、一方の種が増加し他方が減少する方向に動き出します。 初期値が種1寄りなら種1が勝ち、種2寄りなら種2が勝つ ── いわば「先手必勝」の状況です。
2本の等傾線の交点を計算すると、共存平衡点の座標は次のようになります。
$N_1^* = \dfrac{K_1 - \alpha_{12} K_2}{1 - \alpha_{12} \alpha_{21}}, \quad N_2^* = \dfrac{K_2 - \alpha_{21} K_1}{1 - \alpha_{12} \alpha_{21}}$
安定共存の条件($\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$)のもとでは $\alpha_{12}\alpha_{21} < 1$ となり、分母は正です。また分子もそれぞれ正になるため、$N_1^* > 0, N_2^* > 0$ が保証されます。
4つのパターンを分類できたところで、次のセクションでは安定共存の条件 $\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ が生物学的に何を意味するのかを掘り下げます。
安定共存の条件をもう一度確認します。
$$\alpha_{12} < \frac{K_1}{K_2} \quad \text{かつ} \quad \alpha_{21} < \frac{K_2}{K_1}$$
第1の不等式 $\alpha_{12} < K_1/K_2$ を言葉で書くと、「種2の個体が種1に及ぼす競争的影響は、種1が自分自身の環境収容力に対して『弱い』」ということです。 もっと直感的に言えば、種1にとって、自分と同種の個体のほうが他種の個体より厄介な競争相手であるということです。
なぜこれが共存をもたらすのでしょうか。 もし種1の個体数が減り、種2の個体数が増えたとしましょう。 種内競争のほうが強いので、種2にとっては自分自身の増えた個体数のほうが資源を圧迫する主な原因です。 その結果、種2の増加は頭打ちになります。 一方、種1にとっては競争圧が和らぐので回復できます。 つまり、どちらかの種が過度に増えることが自動的に抑制される負のフィードバックが、種内競争の強さから生じるのです。
2つの条件を辺々掛けると、
$$\alpha_{12} \cdot \alpha_{21} < \frac{K_1}{K_2} \cdot \frac{K_2}{K_1} = 1$$
つまり、安定共存の必要条件は $\alpha_{12} \cdot \alpha_{21} < 1$ です。 両方の競争係数が1未満であれば、この条件は自動的に満たされます。 $\alpha_{12} < 1$ かつ $\alpha_{21} < 1$ であることの生物学的意味は明快です。 「どちらの種にとっても、他種の個体1匹は同種の個体1匹より競争圧が小さい」── これこそニッチ分化の数学的表現にほかなりません。
安定共存のために必要かつ十分な条件は $\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ です。
この条件は「種内競争 > 種間競争」と要約でき、両種のニッチが十分に分化していることの数学的表現です。$\alpha_{12}\alpha_{21} < 1$ は必要条件であり、特に $\alpha_{12} < 1$ かつ $\alpha_{21} < 1$(両方の競争係数が1未満)であれば安定共存が保証されます。
共存条件は、ニッチ分化が進化的にどのように実現されるかにも光を当てます。 同所的に(同じ場所で)共存する近縁種どうしが、異所的に(別々の場所で)生息する場合より形態的な差異が大きくなる現象を形質置換(character displacement)と呼びます。
たとえば、ダーウィンフィンチでは、同じ島に2種が共存する場合、くちばしのサイズが大きく異なります(一方は大きな種子、他方は小さな種子に特殊化する)。 別々の島にいる場合は、くちばしのサイズが中間的で似通っています。 これは、共存する場合に競争係数 $\alpha$ を下げる方向に自然選択が働いた結果と解釈できます。 $\alpha$ が下がれば共存条件が満たされやすくなり、両種が安定的に共存できるようになります。
競争モデルの観点から、競争排除則を正確に再定式化できます。 完全に同じニッチを持つ2種では $\alpha_{12} = \alpha_{21} = 1$ です。 このとき $\alpha_{12} \cdot \alpha_{21} = 1$ なので、安定共存の必要条件 $\alpha_{12}\alpha_{21} < 1$ が満たされません。 帰結は $K_1 > K_2$ なら種1勝利、$K_1 < K_2$ なら種2勝利、$K_1 = K_2$ なら中立的な共存(構造的に不安定)となります。 つまり、完全に同じニッチの2種の安定共存は数学的に不可能であることが証明されます。 これが競争排除則の数学的根拠です。
不十分な理解:$\alpha_{12}$ と $\alpha_{21}$ がともに小さければ共存できる、と漠然と理解するだけでは足りません。
正確な理解:共存の条件は $\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ であり、$K_1/K_2$ の値によってはたとえ $\alpha$ が1未満でも共存できない場合があります。たとえば $K_1 = 100, K_2 = 1000$ のとき $K_1/K_2 = 0.1$ なので、$\alpha_{12} < 0.1$ でなければ共存できません。環境収容力の差が大きいと、共存のハードルも高くなるのです。
ここまでで、競争モデルの理論的な枠組みが完成しました。 次のセクションでは、この理論が実際の実験や生態学の発展にどのように結びついているかを見ていきます。
ロトカ・ヴォルテラの競争モデルを最初に実験的に検証したのが、ロシアの生態学者ガウゼ(Georgy Gause)です。 彼はゾウリムシの近縁3種を使った培養実験で、モデルの予測を鮮やかに実証しました。
実験1:ヒメゾウリムシ vs ゾウリムシ
同じ培養液(同じ餌のバクテリア)で混合培養すると、ヒメゾウリムシ(P. aurelia)が勝ち、ゾウリムシ(P. caudatum)は16日程度で絶滅しました。 これはニッチがほぼ完全に重なる2種の競争で、一方が一貫して他方を上回る場合に対応します。 モデルでは「種1勝利」のパターン($\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} > K_2/K_1$、または単に種1の方が環境収容力と増殖効率が高い場合)です。
実験2:ゾウリムシ vs ミドリゾウリムシ
ゾウリムシ(P. caudatum)とミドリゾウリムシ(P. bursaria)は混合培養で共存しました。 その理由は、ミドリゾウリムシが細胞内にクロレラ(共生藻類)を持ち、培養液の底にたまる酵母を好むのに対し、ゾウリムシは培養液上部のバクテリアを主に食べるという微小なニッチ分化があったためです。 競争モデルの言葉で言えば、$\alpha_{12}$ と $\alpha_{21}$ がともに十分小さく(1未満で)、安定共存の条件が満たされていたということです。
排除の場合(ヒメゾウリムシ vs ゾウリムシ):
両種が同じバクテリアを同じように食べるため、$\alpha_{12} \approx 1, \alpha_{21} \approx 1$ と推定されます。しかしヒメゾウリムシのほうが増殖速度が速く($r_1 > r_2$)、環境収容力も高い($K_1 > K_2$)ため、種1(ヒメゾウリムシ)勝利のパターンとなります。
共存の場合(ゾウリムシ vs ミドリゾウリムシ):
微小環境の使い分け(上部 vs 底部、バクテリア vs 酵母)により、他種の個体が自分の資源を消費する度合いが小さくなります。その結果、$\alpha_{12} < 1, \alpha_{21} < 1$ となり、安定共存の条件が満たされます。
ロトカ・ヴォルテラの競争モデルは強力ですが、競争係数 $\alpha$ が「現象論的」(phenomenological)なパラメータである点に限界があります。 つまり、$\alpha$ の値は実験で測定するしかなく、その値がなぜそうなるのかを機構的に説明できません。
アメリカの生態学者デイビッド・チルマン(David Tilman)は1980年代に、より機構的なアプローチとして$R^*$ 理論(Resource ratio theory)を提唱しました。
$R^*$ とは、ある種が個体群を維持できる最低限の資源濃度です。 つまり、$R^*$ が低い種ほど、資源が乏しい環境でも生き残れる「倹約家」です。 チルマンの理論は、次のシンプルな原理に基づきます。
1つの制限資源をめぐって2種が競争するとき、$R^*$ が低い種(資源をより枯渇させられる種)が最終的に勝利する。
$R^*$:種が増殖と死亡のバランスを保てるちょうどギリギリの資源濃度。資源濃度がこの値を下回ると個体群は維持できない。2種の $R^*$ が異なれば、$R^*$ が低い種が資源濃度を相手の $R^*$ 以下に引き下げることで、相手を排除する。
これは競争排除則のメカニズム的な説明です。 1種類の資源しかなければ、$R^*$ が低い種が必ず勝ちます。 しかし、2種類以上の資源があり、それぞれの種が異なる資源で $R^*$ が低い場合には、共存が可能になります。
たとえば、種Aは窒素の $R^*$ が低く(窒素が少なくても生きられる)、種Bはリンの $R^*$ が低いとしましょう。 窒素が少なくリンが多い環境では種Aが有利、リンが少なく窒素が多い環境では種Bが有利です。 中間的な環境では、種Aが窒素を引き下げ種Bがリンを引き下げるという分業が成立し、2種が共存できます。 これはロトカ・ヴォルテラモデルの共存条件($\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$)を、資源消費という具体的なメカニズムで説明したものです。
チーソン(Peter Chesson, 2000)は、共存のメカニズムを「安定化メカニズム」と「均等化メカニズム」に分類する現代的な枠組みを提唱しました。安定化メカニズムとは、ロトカ・ヴォルテラモデルの「種内競争 > 種間競争」に対応し、希少な種が増加できる負のフィードバックを生み出します。均等化メカニズムとは、2種の適応度の差を縮小する効果です。チーソンの理論では、安定化メカニズムが適応度の差を上回れば共存が成立するとされ、現代の群集生態学の中心的なフレームワークとなっています。
ロトカ・ヴォルテラの競争モデルは、種間競争の理論的基盤として今なお生態学の中核に位置しています。 次のセクションでは、この記事の内容が他の記事とどのようにつながるかを確認します。
Q1. 競争係数 $\alpha_{12} = 0.3$ とはどういう意味ですか。「種2の個体1匹は…」という文で説明してください。
Q2. ロトカ・ヴォルテラの競争モデルにおいて、2種が安定共存するための条件を不等式で書き、その生物学的意味を述べてください。
Q3. 等傾線(isocline)とは何ですか。種1の等傾線の式を書き、状態空間上でどのような図形になるかを答えてください。
Q4. チルマンの $R^*$ 理論で、1種類の制限資源をめぐる競争では何が起こりますか。2種の共存が可能になるのはどんなときですか。
2種の競争を記述するロトカ・ヴォルテラモデルにおいて、以下のパラメータが与えられています。
$K_1 = 500,\; K_2 = 300,\; \alpha_{12} = 0.6,\; \alpha_{21} = 0.4$
(a) 安定共存の条件 $\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ が満たされるかどうかを判定してください。
(b) この系が安定共存するとき、共存平衡点 $(N_1^*, N_2^*)$ を求めてください。
(a) $K_1/K_2 = 500/300 \approx 1.67$、$\alpha_{12} = 0.6 < 1.67$ なので第1条件は満たされます。$K_2/K_1 = 300/500 = 0.6$、$\alpha_{21} = 0.4 < 0.6$ なので第2条件も満たされます。したがって安定共存の条件は満たされます。
(b) $N_1^* = \dfrac{K_1 - \alpha_{12}K_2}{1 - \alpha_{12}\alpha_{21}} = \dfrac{500 - 0.6 \times 300}{1 - 0.6 \times 0.4} = \dfrac{500 - 180}{1 - 0.24} = \dfrac{320}{0.76} \approx 421$
$N_2^* = \dfrac{K_2 - \alpha_{21}K_1}{1 - \alpha_{12}\alpha_{21}} = \dfrac{300 - 0.4 \times 500}{0.76} = \dfrac{300 - 200}{0.76} = \dfrac{100}{0.76} \approx 132$
共存平衡点は $(N_1^*, N_2^*) \approx (421, 132)$ です。
次の記述が正しいか誤りかを判定し、誤りの場合は正しく訂正してください。
(a) 競争係数 $\alpha_{12} = 1.5$ は、種2の個体1匹が種1に対して、種1の同種個体1.5匹分の競争的影響を与えることを意味する。
(b) 安定共存の条件は、両方の競争係数 $\alpha_{12}$ と $\alpha_{21}$ がともに1未満であれば必ず満たされる。
(c) ロトカ・ヴォルテラの競争モデルでは、内的自然増加率 $r_1, r_2$ の大小が競争の帰結を決定する。
(a) 正しい。$\alpha_{12} = 1.5$ は、種2の個体が種1に及ぼす競争圧が、種1の同種個体より50%大きいことを意味します。
(b) 正しい。$\alpha_{12} < 1$ かつ $\alpha_{21} < 1$ のとき、$K_1/K_2 > 1$ ならば $\alpha_{12} < 1 \leq K_1/K_2$ であり(ただし $K_1 \geq K_2$ のとき)、厳密には $K_1/K_2$ が1未満の場合は $\alpha_{12}$ がそれを下回る必要があります。しかし実は、$\alpha_{12} < 1$ ならば $\alpha_{12} < K_1/K_2$ は「$K_1 \geq K_2$ のとき」自動的に満たされます。一般には、$\alpha_{12} < 1, \alpha_{21} < 1$ だけでは不十分なケースがありえます。
【訂正】厳密には誤りです。$\alpha_{12} < 1$ かつ $\alpha_{21} < 1$ であっても、$K_1/K_2$ が十分小さければ $\alpha_{12} < K_1/K_2$ が満たされない場合があります。たとえば $K_1 = 100, K_2 = 200$ のとき $K_1/K_2 = 0.5$ なので、$\alpha_{12} = 0.8$ では条件を満たしません。正確な条件は $\alpha_{12} < K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ です。
(c) 誤り。ロトカ・ヴォルテラの競争モデルでは、競争の最終的な帰結(どちらが勝つか、共存するか)は $\alpha_{12}, \alpha_{21}, K_1, K_2$ の関係で決まり、$r_1, r_2$ は帰結に影響しません。$r$ は平衡に至る速さに影響しますが、到達先は $\alpha$ と $K$ で決まります。
以下のパラメータを持つ2種の競争系について、等傾線を図示し、帰結を予測してください。
$K_1 = 400,\; K_2 = 600,\; \alpha_{12} = 1.2,\; \alpha_{21} = 0.3$
(a) 種1の等傾線の $N_1$ 切片と $N_2$ 切片を求めてください。
(b) 種2の等傾線の $N_1$ 切片と $N_2$ 切片を求めてください。
(c) $\alpha_{12}$ と $K_1/K_2$、$\alpha_{21}$ と $K_2/K_1$ をそれぞれ比較し、4パターンのうちどれに該当するか判定してください。
(d) この系の長期的な帰結を生物学的に説明してください。
(a) 種1の等傾線 $N_1 + 1.2 N_2 = 400$ の $N_1$ 切片は $K_1 = 400$、$N_2$ 切片は $K_1/\alpha_{12} = 400/1.2 \approx 333$。
(b) 種2の等傾線 $N_2 + 0.3 N_1 = 600$ の $N_1$ 切片は $K_2/\alpha_{21} = 600/0.3 = 2000$、$N_2$ 切片は $K_2 = 600$。
(c) $K_1/K_2 = 400/600 \approx 0.67$。$\alpha_{12} = 1.2 > 0.67 = K_1/K_2$ なので第1条件($\alpha_{12} < K_1/K_2$)は満たされません。$K_2/K_1 = 600/400 = 1.5$。$\alpha_{21} = 0.3 < 1.5 = K_2/K_1$ なので第2条件は満たされています。
$\alpha_{12} > K_1/K_2$ かつ $\alpha_{21} < K_2/K_1$ なので、これは種2勝利のパターンです。
(d) 種2の等傾線が種1の等傾線の外側にあり、種2の環境収容力が大きく、かつ種1に対する種2の競争影響($\alpha_{12} = 1.2$)が大きいため、種2が種1を排除します。最終的に $N_1 \to 0$、$N_2 \to K_2 = 600$ に収束します。
ある湖に生息する2種の魚について、以下の情報が得られました。
(a) この情報から、$\alpha_{AB}$(種Bが種Aに及ぼす競争係数)のおおよその値を推定してください。理由も述べてください。
(b) この2種が安定共存できる可能性は高いですか。理由を述べてください。
(a) 種Aは100%プランクトンに依存しています。種Bはプランクトンに50%依存しており、種Aの半分のプランクトン消費効率しかありません。したがって、種Bの個体が種Aのプランクトン資源に及ぼす影響は、種Aの同種個体のおよそ $0.5 \times 0.5 = 0.25$ 倍と推定されます。$\alpha_{AB} \approx 0.25$。
(b) $K_A/K_B = 10000/8000 = 1.25$ なので、$\alpha_{AB} \approx 0.25 < 1.25$ は十分満たされています。逆方向について、種Aは底生生物を食べないので種Bの底生生物資源にはほとんど影響しませんが、プランクトン資源では種Aの消費効率が高いため、$\alpha_{BA}$(種Aが種Bに及ぼす影響)はやや大きい可能性があります。ただし種Bの資源の50%は底生生物なので、$\alpha_{BA}$ はおそらく $1 \times 0.5 = 0.5$ 程度です。$K_B/K_A = 0.8$ なので $\alpha_{BA} \approx 0.5 < 0.8$ であれば共存可能です。以上より、ニッチが部分的に分化しているため安定共存の可能性は比較的高いと考えられます。
ロトカ・ヴォルテラの競争モデルにおいて、共存平衡点の安定性をヤコビ行列を用いて証明してください。
(a) 競争方程式を $dN_1/dt = f_1(N_1, N_2),\; dN_2/dt = f_2(N_1, N_2)$ と書くとき、共存平衡点 $(N_1^*, N_2^*)$ におけるヤコビ行列 $J$ を求めてください。
(b) $\alpha_{12}\alpha_{21} < 1$(安定共存の必要条件)のもとで、ヤコビ行列の固有値がともに負の実部を持つことを示してください。
ヒント:2次正方行列の固有値の実部が負であるための条件は、トレース $\mathrm{tr}(J) < 0$ かつ行列式 $\det(J) > 0$ です。
(a) $f_1 = r_1 N_1 (K_1 - N_1 - \alpha_{12}N_2)/K_1$、$f_2 = r_2 N_2 (K_2 - N_2 - \alpha_{21}N_1)/K_2$ の偏導関数を求めます。
共存平衡点では $K_1 - N_1^* - \alpha_{12}N_2^* = 0$ かつ $K_2 - N_2^* - \alpha_{21}N_1^* = 0$ が成立することに注意すると、
$$\frac{\partial f_1}{\partial N_1}\bigg|_{*} = -\frac{r_1 N_1^*}{K_1}, \quad \frac{\partial f_1}{\partial N_2}\bigg|_{*} = -\frac{r_1 \alpha_{12} N_1^*}{K_1}$$
$$\frac{\partial f_2}{\partial N_1}\bigg|_{*} = -\frac{r_2 \alpha_{21} N_2^*}{K_2}, \quad \frac{\partial f_2}{\partial N_2}\bigg|_{*} = -\frac{r_2 N_2^*}{K_2}$$
したがって、ヤコビ行列は
$$J = \begin{pmatrix} -\dfrac{r_1 N_1^*}{K_1} & -\dfrac{r_1 \alpha_{12} N_1^*}{K_1} \\ -\dfrac{r_2 \alpha_{21} N_2^*}{K_2} & -\dfrac{r_2 N_2^*}{K_2} \end{pmatrix}$$
(b) 簡潔に $a = r_1 N_1^*/K_1 > 0$, $b = r_2 N_2^*/K_2 > 0$ とおくと、
$$J = \begin{pmatrix} -a & -\alpha_{12} a \\ -\alpha_{21} b & -b \end{pmatrix}$$
トレース:$\mathrm{tr}(J) = -a - b < 0$ ($a, b > 0$ より明らか)
行列式:$\det(J) = (-a)(-b) - (-\alpha_{12}a)(-\alpha_{21}b) = ab - \alpha_{12}\alpha_{21}ab = ab(1 - \alpha_{12}\alpha_{21})$
$\alpha_{12}\alpha_{21} < 1$ のとき $\det(J) = ab(1 - \alpha_{12}\alpha_{21}) > 0$ です。
$\mathrm{tr}(J) < 0$ かつ $\det(J) > 0$ より、ヤコビ行列の固有値はともに負の実部を持ちます。したがって共存平衡点は安定です。
ヤコビ行列の対角成分がともに負であること($-a, -b < 0$)は、各種が自分自身の個体数に対して負のフィードバックを持つことを反映しています。行列式が正であるために $\alpha_{12}\alpha_{21} < 1$ が必要であることは、「種間競争の積が種内競争の積を超えない」という安定共存の条件に正確に対応しています。$\alpha_{12}\alpha_{21} > 1$ のとき $\det(J) < 0$ となり、固有値の一方が正になるため、平衡点は鞍点(不安定)になります。